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離婚裁判百選⑱未婚化から考える

 不倫を原因とする、被害者から自身の配偶者以外の第三者への慰謝料請求は、制限されるべきであると指摘するのが学説の趨勢である、これに対して裁判所は、制限をしていないことは指摘をしました。別の観点で、そもそも不貞行為を原因とする慰謝料請求そのものは、ともすると、どんどん事件としては減ってしまう余地があるのではないか?が、この記事の仮説です。

1 家族社会学から考える


 岩間ほか「問いからはじめる家族社会学ー多様化する家族の包摂に向けて」91頁(有斐閣,2017)
は,未婚化に関する考察の中で,欧米とは異なり,結婚外での出産は制度的。社会的に強く抑圧されているため,出産はほとんどが結婚の中で起こる。したがって未婚化は直接的に出生率を低下させる、出生っ率の低下は人口減少につながると指摘しています。そのうえ、未婚化の要因につき、2つの考え方を紹介しています。

2 2つの考え方


 ❶「結婚しなくてもよい,必要がない」との考え方(自発的未婚説)と,❷若い世代は結婚をしたくても,できなくなった,つまり何らかの社会的障害によって自分の意に反して未婚に追い込まれているとの考え方(非自発的未婚説)が主張されています。❶は、女性の社会進出の増加や家事の重要性がコンビニなどの出現により低下したと説明し、❷は学校や職場などで異性と接触する機会は増えたものの,友人・同僚にとどまることが多く,結婚に至ることは逆に減った、結婚は家族や会社ではなく個人の問題であると考えるようになったからである,と分析しているようです。

3 不倫慰謝料請求は減るのか?増えるのか?


 私が考えている結論は,増えるとみています。
❶の見解を採用し,結婚しなくてもよい,と考えることが一般化してもなお,結婚という手段を用いた夫婦関係の場合,夫婦に対する期待や拘束,貞操を含む義務に対する意識は強くなるのではないか。また,❷の見解を採用し,個人の問題であると考えていたとしても,個人の問題を超越して,家族,夫婦という形式をとった以上,やはり貞操への期待はより強固なものになるのではないか,と考えられます。すなわち,未婚の人が増えるということは,出生率の低下はもとより,本来の貞操や同居義務などの範囲を逸脱し,より強固な義務を生むことになるのではないかと考えるのです。

この状況で,不貞行為の慰謝料を制限する方向で議論をすると,その反動が生じ,自分の配偶者への責任追及を強めてしまう。すなわち,現在より離婚事件は熾烈化していく危険がある,私はこう指摘できると思います。


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