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不倫判例百選61婚姻の破綻は「もっぱら」被告だけが原因?

0 はじめに

裁判所に、婚姻の破綻は「専ら」被告に原因があると明言された事例があります。こんな事態はありえるのか?と思うかもしれません。

不貞行為が原因だと主張していくと、若干危険だと思わせられる事例です。

1 事実関係の整理

東京地方裁判所において平成24年3月22日に出された裁判例は、慰謝料請求の一部を認容している判断をしていますが、結果、その費目【内訳】は、不貞ではありませんでした。

しかし、不貞事例なのです。

前提事実
(1) 原告と被告は,平成22年6月15日,婚姻届出をし,平成23年1月15日離婚した元夫婦である。
(2) 原告と被告は,平成22年7月25日,グランドハイアット東京(以下「ハイアット」という。)に対し,同年12月19日の結婚式及び披露宴(以下「披露宴等」という。)の仮予約をし,同年9月12日には,申込金20万円を支払って本予約をしたが,同年12月16日,披露宴等の予約をキャンセルした(甲3,12,17)。
(3) 原告は,原告と被告の子を妊娠していたが,平成22年12月31日,人工妊娠中絶手術をし,その手術費用は原告が支払った(争いなし)。

1年以内のスピード離婚です。不貞相手は被告とされていないことも特徴でしょう。離婚直前に、中絶手術を受けている事例です。

2 争点と当事者の主張

(1) 離婚原因等
 (原告の主張)
 原告は,被告に様々な嘘をつかれて騙され続け,また,被告は,原告との婚姻前からA(以下「A」という。)と交際をしており,婚姻後も不貞行為を継続していた。被告及びAの共同不法行為により,原告は,披露宴等が直前でキャンセルとなって招待客との関係で恥をかき,離婚を余儀なくされ,人工妊娠中絶手術も余儀なくされるなど損害を被った。

 (被告の主張)
 被告とAは,以前交際していたが,原告と婚姻後,不貞関係にあったことはない。被告は,平成22年12月20日,友人としてAに相談するために会っただけである。
 被告は,原告に対し,被告の母について虚偽の事実を述べたことはあるが,それは,被告が母と同居していたことを言うのが恥ずかしかったためである。

他にも、損害額が争点になっています。損害額は、慰謝料のほかに、グランド杯遭ったのキャンセル料・人工中絶費用にも及んでいます。

3 裁判所の判断

 2 離婚原因等
 前記1認定事実によれば,被告は,婚約中も婚姻した後も,被告の母が病気で倒れたとか,本件マンションに住んでいるのは被告の叔母であるとか,友人の保証人となって披露宴等を行う費用がなかった等と次々と虚偽の事実を述べ,また,原告とホテルとの打ち合わせに出席するなどして披露宴等を行う準備を進めながら,他方で,招待客に対して招待状を交付せず,自らの親族にも原告と婚姻したことも披露宴等開催の予定があることも告げないまま,披露宴等の9日前という直前になって突然4日間に亘って行方不明となり,披露宴等を行う3日前にキャンセルをすることを余儀なくさせ,さらに,原告には,借金の清算のために外出すると告げて実際にはAと会って深夜まで飲食等を共にした上,二人でホテルに戻ってくるなどしたことが認められるのであり,このような被告の数々の行為は,原告が被告との婚姻関係を継続するための基礎となる信頼関係を破壊させるものと言わざるを得ず,原告と被告の婚姻関係が破綻した責任は専ら被告にあると認められ,被告は,婚姻関係破綻により原告が被った損害を賠償する責任がある。

 なお,原告は,原告と婚姻後も,被告とAが不貞関係にあった旨主張し,前記1(10),(12)のとおり,被告とAは,平成22年12月13日ころ1回会い,同月20日には深夜まで飲食し,そのままホテルに宿泊する予定であったことが窺われるものの,その事実のみから直ちに被告とAが婚姻中も継続的に不貞関係にあったとは認められない。

また,aホテルで被告とAが婚姻中不貞関係にあったことを認めたとのBの証言並びにB及びCの陳述書(甲31,32)中の記載についても,仮に,それらの記載された会話があったとしても,被告については,酔って女性と二人で帰ってきたところを突然Aと引き離されたホテルの部屋でほとんど見知らぬ男性3名から詰問されたのであって,被告が任意に真実を述べたとは認め難いし,Aについては売り言葉に買い言葉のようなやりとりであって,その言葉どおりの事実があったとまでは未だ認められない。

 3 損害額
  (1) 慰謝料

 前記1認定事実によれば,原告と被告の婚姻期間は7か月と短いものの,被告は,原告に対し,数々の嘘をつき,披露宴等開催のための準備を全く進めることのないまま披露宴等予定日の9日前に突然自宅に帰らなくなり,直前になって披露宴等の開催を不可能な状態にさせるなどして婚姻関係を破綻させ,原告は被告との間の子について人工妊娠中絶手術を受けるという選択をすることになった等の事情を考慮すれば,原告が大きな精神的損害を被ったものと認められる上,原告が現在も精神的に不安定であること等を考慮すれば,離婚等によって原告が被った精神的損害に対する慰謝料は200万円と認めることが相当である。
  (2) 前記1認定事実によれば,披露宴等をキャンセルすることになった責任は専ら被告にあると認められる上,甲8によれば,被告は,原告との間で,披露宴等のキャンセルによって生じた損害は被告が負担するとの合意があったと認められるから,原告がハイアットに対して支払ったキャンセル料82万6132円(うち,20万円は申込金として支払った20万円を充当したもの)及び披露宴のために準備したギフト代金4万1083円は,被告が原告に対して支払うべき損害であると認められる。
  (3) 人工妊娠中絶費用は,必ずしも離婚と相当因果関係のある損害とは認められないから,当然にはその費用自体を被告が負担すべきであるとは認められない。
  (4) 生活費立替分については,原告の陳述書中の記載を裏付ける証拠がないから被告が財布をなくしたという虚偽の供述によって原告から受領したことを認めている7900円の範囲でこれを認めることが相当である。
  (5) 引越費用については,被告は,原告が転居をした平成23年1月28日の1か月前には既に原告と同居していたマンションを出て実家に戻って別居していたのであり,原告の転居費用が離婚と相当因果関係のある損害であるとは直ちに認められない。
  (6) 以上の(1)~(5)で認定した損害額の合計は287万5115円であり,本件と相当因果関係のある弁護士費用は29万円と認められるから,被告が原告に対して支払うべき損害額は316万5115円並びに離婚後に支払ったハイアットのキャンセル料を除く253万8983円については不法行為日(離婚日)である平成23年1月15日から支払済みまでの民法所定の遅延損害金及び離婚後に支払ったハイアットのキャンセル料62万6132円については原告がこれを支払った各支払日から支払済みまでの民法所定の遅延損害金となる。

3 若干の検討

判決文は、婚姻期間が7か月と短いことを承認しつつ、被告の不誠実な態度に言及します。

とりわけ、披露宴等予定日の9日前に突然自宅に帰らなくなり,直前になって披露宴等の開催を不可能な状態にさせるなどして婚姻関係を破綻させたと述べ、不貞行為の存在こそ認めないものの、具体的な事情を丹念にみることで慰謝料請求を認容する態度を明らかにしています。そこに、人工妊娠中絶手術を受けるという選択をも考慮され、一連の経緯をみていることがわかります。

不倫関係に関しては、深夜まで飲食し,そのままホテルに宿泊する予定であったことが窺われるものの,その事実のみから直ちに被告とAが婚姻中も継続的に不貞関係にあったとは認められないとして一蹴していますが、不倫関係の立証ができないからといってあきらめるべきではないことを示しているようにも思います。

つまり、経緯等を丹念にみていくと、不貞行為であると認識してもおかしくない事例でも、他の根拠によって慰謝料請求できる余地がある証左である裁判例といえましょう。

ある意味で、思い込みは危険だと思わせる事例です。










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