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詩集 詩人の仕事 前田 新~東北に根差した地鳴りのような図太さ~

「詩人の仕事」を一気に読んだ。若々しい知性を武器に福島と農にこだわり、自分の根源にあるものを自分と連なる詩人たち、井上ひさし、詩経、昌益、賢治、啄木、多喜二、それに連なる無数の名もなきアテルイ「あゝわが産度の地 東北よ」の想いと重ねながら問い続けている作品群。
 
前田さんの想いは福島の現状、政治の現状を「詩」は警告すべきとして
この現実を凝視して/世界に向けて発信するのは/詩人の義務だ
(福島核災のいま)
2020年に新型のコロナウイルスが/パンデミックを起こしたことを/すべての詩人は,/自らの詩の中に記録しなければならない (パンデミック)
と明確に書いている。 全く同感です。

前田さんの「ディストピア」思想、人類が決して前に進んでいないことを東北の生命の根源から問い直す。
その問いかけのえぐるような視点。

農の死者たちの遺恨の骨よ/今こそ祟り神となって/虚栄の首都へ向かえ

3.11で薬殺され、110か所に埋められた牛、豚、鶏をうたった「満月の夜の雲」の「非道の闇」は、「ディストピア」~人類の未来の暗示~に胸を突かされる。
「会津獅子舞幻想」「わが心象の北の方位」は自分のいのちと心象の中にある連続性を印象的な言葉で語っていて、印象に残る。

死について瞑想するとき/わたしの意識は幻覚の中で解体される///そのとき、わたしはいのちの/オルガスムスに入っていく
 
原発関連死を鋭く突いた「カンレン死」
カンレン死という死から/あなた自身も逃れ得ない/それをあなたが知らないだけだ
これは権力者だけでなく、その支配を受け入れてしまい便利さにおぼれてきた私たちにも当てはまる言葉ではないだろうか

「翠点」「墓じるし」は現実とどう向きあうべきかを示す作品。大江健三郎の翠点ということばから、「言葉と人間の環」導き出す。

「忘れない」「母方の祖父」「初秋のころ」「傘寿」「孫からの手紙」は前田さんの生い立ちに根差した「深い言葉」

私の記憶に二人の父の面影はない/ほどなく戦争は負けて終わった/
祖父母は死に、ほどなく母と小学生の私は/為す術もなく村の最下層に落ちていった/村の弱者が味わう辛酸を/私は飴玉のように舐めて育ち/二十歳の時、村に赤い旗を立てた(忘れない)

「G線上の詩」の「詩のために私が隠してきた秘密」というものが年輪を重ねた詩人の中にある深さを感じさせる。
1937年生まれ84歳。日本共産党町議8期、還暦の時に脳梗塞に倒れ、以後重度2級の身障者として文学活動 この詩集が12冊目。

冒頭の「忘れえぬ詩人たち」で最も尊敬する詩人・真壁仁氏と様々な未知の詩人たちが取り上げられており、私は強く共感いたしました。

東北に根差した地鳴りのような図太さを持つ詩人の尽きぬ魂をこの本で知ることができた。

2022.8.5 高細玄一

コールサック社 1600円 ISBN978-4-86435-530-8


2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します