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その大木は原っぱに一本 樹っていた わたしはその大木のそばに 立っていた 春、生々と葉が芽吹く 夏、青々と葉がひらく 秋、蕭々と葉が色づく 冬、寒々と葉が落ちる その時々、一瞬、一瞬が わたしの眼に映じ そして 消えてしまう 大木はわたしの前に聳える しかし 大木はわたしの前に消える その大木は わたしの内の深い処に 根をはっている
死とか 血とか 言いますか 簡単に 内臓飛び出したり 吐いたり 恨んだり ちょん切れたり しますか 造作もなく ありふれて そんなにも 死にたいですか 自分のことを 見てほしいですか 自分のことを 傷つけたいですか もしや それで 救われるとでも 思っていますか 血の吹きでる 生き物を 殺した事は ありますか その まだ温かい 内臓を つかんでみてよ 赤ちゃんが いっぱい死にました 赤ちゃんを 助けたい お母さんも 死にました 誰かが 何かのために 皆のために 死にました
開けたてのピアスホールが疼くような鍵穴に、ゆっくりと忍び寄るのは銀色に輝く憂鬱な鍵。 ガチャりと悲鳴を聞いた後に、冷えきったドアノブに手をかければ、奴隷のような空気が流れ込んでいく。それは大海の波のようにグネグネしている、ほんの僅かな修羅場。混沌に溢れた暗闇に、スポットライトの灯火が「おかえり」とささやく様な気配を生み出す。くたびれた靴を脱げば、死にかけた靴下を処分し、ぼんやりとした部屋で影は横になる。意味も知らない言葉の羅列。三面記事でさえ、真実は分からないと折りたたまれて
時の砂の間で迷子になる、紅の太陽。その狭間に囚われた、古の言の葉。 「私達は夜ふかしをします」 と、夜行性の誤字が主張するので 「そうね」 と葵は答えた。 重なり合う影が頷いて、ビロッと伸びていく。取り残された感満載の光の子らは、不平不満のオンパレード。嘘がつけないアスファルトは、黒さを一層増していく。 「私達はまだ子供なんです」 と、面の無い地球(ホシ)が主張するので 「そうね」 と葵は答えた。 見下ろすバカンス。カーテンをすり抜ける馴れ馴れしい眼差し。
心弾ける改革を、君は自殺と名付け、おまけに軽く体温をおとした、 何度も警告を無視して走り続けるけど、いつまでも体力がもつ訳でもなく、今度は急に鳴き始める始末(肝心な事をバカにしているというのか) 知らぬ間に流れていく言の葉を釣り上げて、思いもよらない想像に吊り上げてなんとする。 きっと惑星の定義に外れた星が嫉妬をしているだけなんだろ。 そう そうなんだ 果てしなくブルーに近い自由 満足した満月に満面の笑みを与え、満点を取った満天の星 つまり言いたい事なんて最初
彼は 詩人で絵描きだった 肌は少し浅黒く 口をあまり開かず喋る 目には斜視があって 前かがみで歩き 人の中では いつも浮いていた 彼と知り合ったのは 私がアパレルの 倉庫作業の仕事を していた時 新しく入って来た バイトの一人だった お互い映画や音楽 小説等の趣味が 合ったせいか 意気投合し 私生活でもよく遊んでいた 彼はバスキアを尊敬し 絵を描き 太宰や森鴎外等の 純文学を好んで読み 詩や短い話を書いていた 家に行くと 一人暮らしなのに 二段ベッドが置いてあり 二段ベッド
*「永別の詩」について*モノ書く人間の業というのでしょうか。 いえ、いい歳をしているのに頼りないことですが、単にわたしが父を送る為の、その最期(とき)までの心の杖のようなものが必要で、それで自分の為に書こうとしているのだと思います。 お許しください。 これは年古(としふ)りた娘が、去りゆく父へ送る最後の恋文なのかもしれません。 2020.12 つきの 2020年12月、父は癌の為、入院していたホスピスにて永眠いたしました。この「永別の詩」は、その父との日々を書いたもの
コーヒーカップの破片にコーヒーを注ぐことに含まれる ひとひらの真実を 掬い上げようとしてお前は ピリオドを打って そのたびに書き始めるのか (そのコーヒーを汲み尽くせ) もっと人間らしくするものを 尋ねあぐねてお前は カフェインの致死量を 腐敗しやすい指で探り出そうとするのか (致死性の絶望に飢える) 世界を振り払うことができずに 使い古された夜へと また沈んでいく 冷たい床に薄く広がるコーヒー液のせいで お前はなかなか寝つけない 遠く換気扇のモーター音をかき分けて 溢
雨上がりの街路を行く子、 土星の子。 薄曇りの空から 眠りから覚めたばかりといったようすで 優柔不断な薄日が 黒く濡れたアスファルトをきらめかせる、憂い。 人知れず潤むひとみの上を 滑っていく土星の子、 落下した青栗は道の真ん中で寄る辺を失い 人絶えた通りに土星の子はひとり。 開けた林檎畑の向こう、光る街並み。 街の上空をきしって鳩が群れ飛ぶ 巣食うもの 土星の子は鳩の下では歌えない 街の方より飛び来る鴉、 鳩に追い立てられて 山の手へと落ち延びた鴉。 ブラック・オパ
ぼくにはおおきなひみつがあって ここではひっそりくじらを飼ってる 名もないちいさな赤い魚と おおきなくじらは2匹で暮らす えさはいらない あたまのなかの のうみそのよな、 かたまりをとりだして まいにち太陽光で ひなたぼっこをさせてあげる くじらは昔ね ちいさな青い魚だったよ すっかり怯えてふるえていたんだ ぼくは思わず抱きしめていた きみはしらない あたまのおくの のうみそこえた、 かたまりは飛びだして まいにち僕らを 芯から包んでいてくれる 還ってきたら、ま
うすら寒い 霧時雨 傘にうちになんとも言えない かなしい気持ちがおそってくる 何がかなしいのか あまりに曖昧で あまりに滑稽 前を歩く人たち 傘のうちに灯りがともる ああ そうかそうなんだ 羨望なのだ 羨望がかなしくさせるのだ あの灯りがほしいのだ 腕に溜まる 水のつぶ さっとひと振り払いのける 空はほの暗く さざなむ雨音が虚しい ビルの合間を歩く 風がほほを切りつける こんな世界が本当なのだろうか これは誰の物語なんだろう かなしみの根源 そこには惰性 そこには