誰かが見ている

2年前サンフランシスコに来るまでは、モロッコ料理屋を営んでいました。席数は少ないながらも、現地から入れたインテリアや食器、できる限りのモロッコワインやビールを仕入れ、かなり本格的な店として頑張っていました。

もちろん豚肉は使わず、クスクスやタジンなど、代表的なモロッコ料理を真面目に。

ですが、人間長く一個のことをやってたら、どうしても飽きが来るんですよね。もうなんかモロッコ関係なしに、斬新なメニューを加えたくて、加えたくて。

その頃毎年行ってた、お気に入りのパリのカフェのメニュー、モッツアレラチーズのパートフィロ包み焼きを作ろうかしら？と思い始めたのです←パクリなのは置いといて。

モッツァレラのパートフィロ包み焼きとは、紙みたいに薄い小麦粉の皮で、モッツアレラを包み、多めの油で揚げ焼きします。するとパートフィロはカリッと、モッツァレラはトロ〜リと。サラダに乗せて前菜になります。なんと言っても泡や白ワインとの相性抜群！

だが、それはモロッコ料理ではありません、恐ろしいことにパリのそのカフェでのこのメニュー名はサラダナポリターナ。モロッコを植民地としていたフランスのものですらないのです。ああああ、困った、言い訳ができません。正統派のモロッコ料理屋としてやってきたのにブレてしまう。

そこで、再び閃きました。言い訳チックではあるものの、モッツァレラを自家製にしちゃえば、メニューに載せてもスペシャリテ感があって許されるんじゃね？。

ということでモッツァレラ自家製の旅に出ることになりました。

簡単に自家製モッツァレラの作り方を記しておくと、

①低音殺菌牛乳を湯煎で40℃に温める②ヨーグルトをひと匙加える③レンネット（凝固剤を加える）④固まってくるのでナイフで切れ目を入れる⑤出てくるホエー液を除く⑥固形になったら、熱湯の中で揉む⑦出来上がり。

ネットで調べたら、意外に簡単そうでこれならやれる！と頑張りました。

そんな簡単だったらみんな作ってーーる！って。

モッツァレラできた？

自家製モッツァレラはどうなりましか？

どれくらい牛乳使ったの？

狭いオープンキッチンで、モッツァレラを作っていたので、カウンターのお客さんから、毎日聞かれましたが　••••••••••••••••••••••••••••••

三週間経ってもモッツァレラは出来ませんでした。

その頃にはチーズ作り専門の記事を読むまでになっていて、どうやら、PHが重要らしく、ヨーグルトの作用により酸度を上げ PH5.3からPH5.５の間になった時に、モッツァレラは伸びるらしい。

PHって！！そんなのどうやってわかるのよ！！

それでも諦めず、毎日朝早く店に行き、せっせとチーズ作りに励んでいたら、ほとんど話したこともないお客様の一人が、小さな包みを渡しに来ました。

包みを開けるとPH計がありました。

見ていたんですね、ずっと、知っていたんですね、ずっと。

牛乳を50リットル以上、失敗していたのを。

その午後、PH計を使ってモッツァレラを作ってみたら、

あのお客様がPH計に気づいてくださらなかったら、私は今でも成功してなかったでしょう。本当に感謝です。

そして、このモッツァレラの件を思い出すことが近頃ありました。

先月POP-UP SHOPに参加した時のことです。

前の日はほぼ徹夜でクッキーとパンを用意したのですが、知人が少ないこともあり、約半数は売れ残りました。

かかった材料費もありますが、自分が精一杯の力を注いで作ったものが、世間に認められなかったということが私を打ちのめしました。思いを込めたものを簡単に破棄をしたくない、ですが、自分で消費するのはたかが知れています。そして制作する時に味見しすぎて、もうクッキーは食べたくないぐらいの気持ち。

がっくりと膝をつきました。

その時、携帯が鳴りました。声の主は以前に、私の焼いたパンを買ってくれた人。POP-UP SHOPを私が開いた事をSNSで知り、

もし売れ残りがあったら、うちのパーティのお土産にするから引き取るよ。

と声をかけてくれたのです。

彼女は、POP-UP SHOPの会場から遠いところに住んでいて、駆けつけることはできなかったけど、在庫があるならそれを引き取ることで、私を助けようと思ってくれていました。

何かに打ち込んでいると誰かが見ていてくれました、サンフランシスコでも！

頑張って成果が出ないと諦めたくなりますが、とにかく続けていると誰かがきっと見ています、思いもかけない方向から助けがくる事があります。

そして、それは嬉しい結果と素晴らしい友人を同時に手に入れられる時です。