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美魔女

私の知り合いにいわゆる美魔女がいる。一緒にいるところを、友人に見られると、『誰?あの美魔女?』と99%聞かれるほどの美人だ。

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本人もその自覚はあり、誰かから『綺麗ですね』と真っ向から褒められても、『ありがとう(そんなの知ってるわ)』と動じず返している。

そう、彼女は常に完璧だ。子供を育てながら、働きながら、ものすごく忙しい毎日を送っているのに、彼女は生活臭を全く感じさせない。

本人は美魔女という言葉が嫌いで『褒めるなら、普通に綺麗ですね〜!で良いじゃない。美魔女って言うと“歳の割には“って聞こえちゃう』と言っている。

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私は彼女との付き合いが15年以上になるんだけど、素顔を知らない。彼女曰く、私はそんなに美人じゃない、むしろブスだと思う。だけど綺麗に見せるテクニックは持っている、だそうだ。


大人になると、女性は公の場では化粧をしていることが多くなる、他人からは化粧をしている顔で認識される、つまり化粧をしている顔が公的な自分なんだと。だから彼女は誰よりも早く起き、誰よりも遅く寝る。20年は家族の誰にもすっぴんを見られたことはないと付け加えた。

説明しづらいので彼女をA子としておこう。

A子とある日、一緒にご飯に行った。時は春、その日は旬の白アスパラガスを食べようということに。よく行くビストロで白ワインと頼んだアスパラガスを食べていた時、カウンターの端の方が騒がしくなった。

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そばだてた耳で聞いていると、店側が予約していたお客さんのアスパラガスを他のお客さんに出してしまい、その日はもう売り切れてしまって、せっかく予約したお客さんの分は無くなってしまっていた。

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店員は平謝り、だけど予約したお客さんの怒りは収まらず、声を荒げる。予約してないのにアスパラガスを食べていた他のお客さんも私達もなんだか居心地が悪くなり、、私はなんとなく俯いてしまった。その時、

『よかったら、私の食べます?』

A子が動いた。

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カウンター中が一斉にA子に注目、にっこりと微笑みながら食べかけの皿を差し出すA子。怒ってたお客さんは、一瞬びっくりしていたが、彼女の申し出を丁寧に断り、れ以上は文句も言わず、大人しく席に着いた。ガサガサしていた空気は一切なくなった。

A子が美魔女だからだ!

私は瞬時にそう思った。あの場が丸く収まったのはA子が美人で、それを彼女自身、自分に自信があるからあのような態度に出れたんだと。

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多少のやっかみもあり、帰り道、私はA子になんであんなこと言ったのかを聞いた。

『あのまま、あの雰囲気で飲んでいたら、イライラしちゃってたじゃない?私、怒りたくないんだよね。人前で怒るってエレガントじゃないじゃん。余裕がある態度って、顔の造作以上に綺麗に見えるんだよね。』

『私が目指しているのは、美人じゃない、ましてや美魔女ではない、美しい人を目指しているの。』

そうなんだ、美人と美しい人って違うんだ、ともやもやする、•••••••••••そういえば私はA子が声を荒げたり、感情を露わにしているのを見たことがない。


• ・・その後私は一回だけ見ることなる。

評判になってたワインバーで飲んでた時のことだった。

店は混み合い、隣のお客さんとの距離が近かった。離してる内容も筒抜けなほどの。チラチラこっちを見ていた若い女性二人組が、馴れ馴れしく話しかけてきた。

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『美魔女ですよねー(A子のことをずっと見てた)、人生の先輩として、ちょっと話聞いてもらって良いですかー?』

流れで話を聞いてみた。

『私、今年付き合ってる彼と結婚するんですが、彼の学歴と職がいまいちで、将来性があまりないんですよねー、で、今、好きじゃないけど、すっごいお金持ってる人が現れて、猛烈にアタックされているんですよー。もしも結婚して、お金のことが心配になった時のために、金持ち男性を保険としてどうやったらおいて置けるかって事なんですよー』

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見れば、20代後半くらいの女性二人組、近所に住んでいると言うので、パーカーにデニム、一人はサンダルだった。

私が、良いアドバイスが出て来ず、黙っていると、A子が静かに話を始めた。

『私は毎日努力をしている、綺麗でいようと。太らないようにジムにも通い、新しいメイクを学び、見た目だけでなくできるだけ穏やかに、波風立てず、人に迷惑かけないように頑張っている』

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? ?  いきなり何を言い出したのか私はこの時点でさっぱりわからなかった。


『仕事から帰ってきてクタクタで、お風呂入るのも、顔にクリーム塗るのも面倒くさくて、もうどうでもいいや、と思う時もよくある。だけど、そんな時に、タイに住んでる男性に生まれながら、女性に憧れて、自分を必死に磨いてる人達をYouTubeで見るの。』

タイ? YouTube?さらに困惑する女性達、私ももはや彼女達側でA子の話を聞いている。A子の顔にはそれまで見たことのなかった興奮が見えた。


『私達は女性に生まれているだけで彼らよりアドバンテージがあるの、それにあぐらをかいて女性として怠惰ではいけないといつも思う。違った立場の人のことを考えるし、大事にする。それは今の夫と別れる事があったとして、もしこの歳で一般市場にもう一度戻されて、それでもまたパートナーが欲しいと思った時、選ばれるように

自分自身を磨いておく、それが私が思う保険よ。』


A子の声は静かな怒りとも思えるものだった。

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覚悟ある生き方に私は心を打たれた。彼女の綺麗な理由がよくわかった、それだけ努力をしていたら、胸張って、自分を美しい人と認められよう。

若い女性達も先ほどとは態度が変わり、スッと背筋が伸び、A子の話を胸に刻んだようだった。帰り際には、立ち上がって私たちを見送ってくれた。

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アスパラガスのカウンターの件でA子に関する私のぼんやりしていた考えががこの時はっきり形になった。

彼女は美魔女じゃない、

A子は美しい魔女だ。

人の生き方をも変えられる。

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でも、この記事を読んだら、きっと彼女はこう言う。

『もー魔女って言うなー』

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綺麗な人には理由があるね。



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