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『パッドマン』日曜大工スーパーヒーロー誕生・感動DIY超大作

クライマックスの国連スピーチで泣いてしまうとは思わなかった。予告編が当該スピーチのダイジェストだったから、何を喋るかはだいたいわかっていたにも拘わらず。たっぷり2時間半、日曜大工スーパーヒーロー・ラクシュミの旅路に振り回されて、果てはNYまでついて来てしまった結果、もうあのエネルギッシュでシンプルで素朴なスピーチに感無量。舞台袖からラクシュミの晴れ姿を覗いて「ああもうラクシュミってばあ~~~~~!!」と号泣するような気持になってしまう。

Photo by padman official

そう。ラクシュミはDIY精神溢れるスーパーヒーローである。エンドロールの主題歌でずっとヒンディー語で「スッパレヒーロ」と崇められる超人気キャラである。彼の行動原理があまりにもシンプルで素朴で一貫していて、そしてその度合いが極端すぎて、そのアンバランスさをつい好きになってしまうのだ。社会をダイナミックに変えるのは、こういう極端な人なんだよなあ。

ちょっと長い

とりあえず、全体として話は長く感じる。「そうは問屋が卸さない」展開満載なので、紆余曲折が多く、起承転結の承と転が長い傾向はある。ハリウッドだったら、1,2か所は端折っただろうな。

それでも、この物語が観客を魅了するのは、冒頭で述べたラクシュミのキャラクター、彼の壮大な社会起業ストーリー(大筋はほぼ実話らしい)、随所に牧歌的な「物語的ベタな展開」が用意されているところ、そしてなんといっても題材が「月経」であること、だろうか。

これからの生理の話をしよう

今作で、日本の女性たちに一定の衝撃を与えるのは、21世紀でさえインドでは「月経」が「穢れ」として扱われているという事実だろう。

この「月経」を「穢れ」とする伝統文化は、アジア圏には一定見られるように思うし、日本でも古代は月経中の女は藁だらけの小屋に隔離されていたし、経血を川に流せば「穢した」とされたようだ。

また、現代にいたっても「月経」の話が「恥ずかしい」という感覚は、日本でもそんなにありえない感覚ではない。我々働く女の機嫌が悪ければ、男たちが「女の子の日かな」と陰口を叩くような光景も、未だ見られる。

ただ現代インドの田園地帯では、信仰と伝統の影響がかなり色濃い。女性たち自身が「月経の話を男性とするなんて、死にたくなるほどの恥だ」と考えている様子が描かれる。「今日生理だから会うの無駄」と軽々、セフレにLINEする日本の現代女性としては驚愕であった。

背景には当然、女性の社会的地位の問題がある。女性たち自身が、自分たちの扱われ方に疑問を感じない、ということが強烈に描かれていて、新興国における女性の地位向上が難しい構造がよく理解できた。

最後のスピーチでのラクシュミの、「男が女とおんなじだけ、毎月出血してたらすぐ死ぬ!女性、男性より強い!女性が強いと国が強くなる!」という言葉が、笑い泣きを呼ぶ所以である。

女性が女性を信じられなくても、誰よりも女性を信じた男がこの男だったのだなあと。

あのスピーチのシーンでけっこうすすり泣きが聞こえたのは、女性たちなんではないかと思う。

だって、「生理だから機嫌が悪い」は現代日本のわたしたちにも自覚症状があるから。そしてそれは、「社会に出たら許されないこと」だとなんとなく、抑圧的に感じてきたことだから。生理で機嫌が悪いと、女という種全体の評判が貶められてしまうような気がして、生理に振り回されることをストレスに思う女は多くいると思う。

が、ラクシュミを見よ。

生理になんの偏見も持たずに、単なる「DIYで解決したい課題」だと思っているではないか。彼は曇りのない瞳を持った、発明家で工学者で問題解決屋なのだ。

確かに、我々女にとって、生理には、不便や苦痛が付き物だが、それをわざわざ自分たちで社会的な文脈に乗せて、抑圧を抱える必要はないのだ。「だから女は」という男たちの陰口を、内面化する必要はないのだ。

知らず知らずのうちに、「女」という性に対して抱えた、抑圧的な思いや屈折を、我々「女」自身が内面化して、自分を苦しめている、ということに、目から鱗が落ちるように気づかされる、ラクシュミのスピーチ。

あのスピーチのためだけにでも、この映画は観たほうがよい。

”この映画はラブストーリーだ”

妻とパリーの立ち位置や絶妙な描かれ方も大変魅力的。根本的に「この映画はラブストーリーだ」と監督が言っているように、妻とラクシュミ、パリーとラクシュミの愛情の在り方も非常に楽しめる。

しかしパリーちゃんは、新興国のいい生まれのミレニアルたちのアイコンになりそうな感じでしたね。聡明でフラットで、経済合理より意義を重んじる。素晴らしいじゃないですか。


2時間半、おそらく必ず?泣ける、感動超大作。

日曜大工スーパーヒーロー~誕生編~をぜひご覧あれ。

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