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戦間期英国のギャングが地域にもたらした「連帯」について

キリアンにきゃーきゃー言うのが主眼だが、ピーキー・ブラインダーズは21世紀の欧州、ポピュリズムの伸長とEU分裂の危機から顧みたとき、少し面白い視点を提供してくれる。たまたま同時期に読了した「アフター・ヨーロッパ―ポピュリズムという妖怪にどう向き合うか」にリンクした。

Photo by Peaky blinders (on Netflix)

現在、EU全体が東西、南北、左派右派、移民とNATION、親欧州と欧州懐疑派に分断される中、国に、もっと言えば「地元」に根ざした真の国民の代弁者としてのナショナリスト・ポピュリストが跋扈している。各国で彼らに傾倒し、右傾化する民衆が求めているのは「この地における安住、連帯と家族」である。現在の能力主義的権威者たち・・EU本部の高学歴エリートにも、各国政府の危機意識の薄いリベラル政党にも、もたらせない「連帯」。

この戦間期のバーミンガムで、「この地における安住、連帯と家族」の概念を体現していたのは、いみじくもギャング・ピーキーブラインダーズである。そして、国家機関である警察こそが、権威だけを傘にきて地元に治安をもたらせないエリート集団として描かれる。バーミンガムの住民たちが「勝ってほしい」と願うのは、ピーキーブラインダーズのほうだ。

これは、ポピュリズム対EU統合の図式と相似形であり、人々がポピュリズムに心惹かれるその心情を理解するのに大変助けになる。

わたしは、極東の中途半端なWell-educatedとして、リベラル知識人よろしく、ポピュリズムに対しては「ならず者集団」という感想を抱いてきた。まさしくギャングだってそうだ。

「あんな無法者。すぐ暴力に訴える」と眉を顰める女がいる一方で、「でもピーキーブラインダーズがこの町を守ってくれる」という男がいる。

「あんな政治経験のない、権力集中志向の、全体主義の、レイシストの、無学なポピュリストめ」と思ってトランプを軽視し行動しないリベラルがいた一方で、「トランプが俺たちの街を守ってくれる」と思った労働者が大統領選に影響を及ぼした。

ポピュリズムが支持を伸ばしてきた背景にある「感情風景」はこういうものだとありありとわかった。

このドラマ、ピーキーブラインダーズが、この後、どう発展していくのかわからないが、戦間期のカオスにあって、地元を地盤にのし上がっていく一族、家族、というストーリーが、Brexit期のイギリスで支持を得るのは、何やら暗示めいている。

単にキリアン他、ギャングたちが超絶かっこいいということだけでなく、英国人たちは、ありし日、混迷に満ちた時代でも連帯を感じていられたことへの郷愁を、知らぬ間に、感じているのではないだろうか。

そう思うと、このドラマが第二次世界大戦に突入する英国をどう描くかには興味をそそられる。

一次大戦では国王の名のもとに連帯したが、その後、コミュニズムの到来など国内は分断し、ギャングが跋扈し・・そしてさらにやってくる悲劇的な二次大戦。このドラマではあまりにも若く描かれているチャーチルだが、彼が(トランプではないが)”Make Britain Great Again”的活躍をした・・という解釈で何度も戦争映画で語られる時代へ。このドラマならではの視点で二次大戦下の英国の雰囲気がわかるなら、なお面白いと思う。

推薦図書:
アフター・ヨーロッパ―ポピュリズムという妖怪にどう向き合うか


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