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続・下町音楽夜話 0299「コロナ禍の2020年を振り返る」

何とも複雑な心境で年の瀬を迎えている。毎年恒例だった年末の京都旅行はキャンセルし、外出自粛に備えるというこれまでにない状況だ。しかもカレンダーの関係で、今年は12月26日が最終営業日となり、長めの年末年始となる。日常使いのカフェめし屋はクリスマスやヴァレンタインデーにめっぽう弱いので、25日もコロナの感染拡大により自粛ということにして、ディナー・タイムは臨時休業にしてしまった。最終日も早めに切り上げ大掃除としたので、全く商売気のない店であることを露呈している。「スタッフの生活もかかっているんだし、もう少し頑張らないと」という気はしているが、やはりコロナには罹りたくない。

それでも、今年の大掃除は開業後初めてスタッフ全員が揃い、ワイワイ騒ぎながら積もりに積もった埃をやっつけて、終了後に軽く打ち上げをするなどという、ジンジャー・ドット・トーキョーにはあり得ないようなこともしてみた。そもそも本職がそれなりに忙しい連中の集まりでもあり、コロナ禍で皆それぞれに大変な状況ではあろうが、人間関係は頗る良好で、楽しい雰囲気で年内最終営業日を終えることができたことは不幸中の幸いかもしれない。いいスタッフに支えられてここまで続けてこられたと日々感じてはいるが、来月には故郷で就職が決まり、また一人去っていく。飲食のアルバイトはそれなりに出入りのあるものらしいが、寂しい気分を腹の底に抱えての楽しい飲みというのも微妙な気分だった。

年内最後の音楽夜話は、一年の振り返りやら今年よく聴いた盤だの、人並みのことを考えてみた。例年京都でのレコ掘りの報告などで〆ているので、意外に振り返ることに慣れていない自分に驚いたりもしているが、如何せんコロナのバタバタもあって、さほど買い出しも行けてないこともあり、ネタが少ない。それでも、今年は4月5月の外出自粛期間に立ち上げたnoteがもたらしたご縁で、中央エフエムの音楽番組「東京音楽放送局」のパーソナリティを始めたり、7インチ盤のウェブ通販サイトを立ち上げてみたり、これまでにないこともあったのでネタがないわけではない。

ラジオの方は、相方さんのおかげもあり、それなりに楽しくやっているが、月に一回とはいえ深夜の生放送は意外に疲れを引きずるものでもある。翌日休めればいいのだが、そういうわけにもいかず、意外なところで加齢を思い知らされている。何はともあれ還暦だ。無理のきかないカラダであることは以前からだが、60過ぎても忙しい方が楽しい人生であることは事実である。限られた時間を一秒たりとも無駄にしたくない。

ウェブ通販はあくまでも店舗の宣伝の意味でやっているが、今年は意外なほど売れていることもあり、7インチ盤の情報を上げたり下ろしたりということにかなりの時間を費やした。結果として自分の7インチ盤コレクションを見直すいい機会にもなった。売りだしているのだからコレクターとは言い難い状況だが、それでもカフェのお客様やトークイベントの参加者の皆さんなども、このコレクションを楽しんでくださっているのだから、これはこれでアリなのだろう。行けるところまで行ってみよう。

さて、今年の一枚だが、先週届いたポール・マッカートニーの「マッカートニーIII」が意外なほどよく、ヘヴィ・ローテーションでかけていた。78歳の宅録とはいえ、素晴らしいクオリティの楽曲と驚くほど生々しい録音のよさは、今年一番と言ってもよい印象だ。また同様にパーソナルなテイストのアルバムとしては、ウィルコのジェフ・トゥイーディの「WARM」も忘れられないクオリティだ。また同様にジョー・ヘンリー「ゴスペル・アコーディング・トゥ・ウォーター」(2019年発売)も、実にインティミットな雰囲気と相変わらずの録音で楽しませてくれた。夏頃までは、これが今年一番かなと思っていた盤である。

その一方で、大統領のせいもあって分断の深まるアメリカの音楽動向は、Black Lives Matterの動きもあり、これまでとは違う様相を呈していた。これまで全ての盤に好印象を持っていたロバート・グラスパーの「Fuck Yo Feelings」は、先鋭的なラップが前面に出すぎており、自分の好みの音楽の範疇から思い切り外れてしまった。メッセージ性も重要な音楽の一要素だろうが、自分は純粋にメロディや音を楽しみたいクチで、正直なところ残念だった。同様に支持してきたノラ・ジョーンズは、昨今原点回帰的なテイストの佳作が続いており、嬉しい限りである。「Pick Me Up Off The Floor」とサイド・プロジェクト、プスン・ブーツの「Sister」はどちらも嬉しい収穫だった。

最近は聴くものがイベントのテーマに強く影響されてしまうのだが、今年はルーツ・ロックとブルースを随分聴いた。ラーキン・ポーとサマンサ・フィッシュ、アンダース・オズボーンあたりは最大級の収穫であり、今後も聴き続けるであろう。何が一番など決める必要もない、今年は宅録や自宅からの配信で楽しませてくれた全てのアーティストにエールを送って〆ることとしたい。

どうぞよいお年をお迎えください。


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