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7インチ盤専門店雑記494「Handsome Molly」

ノーマン・ブレイクの「The Rising Fawn String Ensemble」という1979年のアルバムがありまして、名門Rounderからリリースされております。感覚的にラウンダー傘下のレーベルからかと思いましたがダイレクトです。このレーベル・デザインは何だかイメージ通りで好きですね。

ノーマン・ブレイクはウィキペディアによると、「ブルーグラス・カントリー音楽・フォークのギタリスト」として紹介されております。そして驚きましたが、ご存命なんですね。現在86歳、最後のアルバム・リリースが2021年のようですから、ずっと活動を続けていらしたようです。1972年にファースト・アルバムをリリースして以降、40枚以上のアルバムがありますからねぇ。サントラ参加もありますから、結構な音源の量です。ただし、日本では知名度がさほど高いとは言えません。

そもそもギタリストということになっておりますが、ヴォーカルもとりますし、フィドル、マンドリン、マンドセロといった楽器もこなします。歌う弦楽器奏者的な人です。そしてルーツィ―な音楽の研究者として知られているように思います。ライ・クーダーのカントリー版といった具合にディープに掘り下げているような方ですね。

彼のアルバムでは、奥方のナンシーさんがチェロやマンドリンを担当していることが多く、何だかいいなと思わせます。そして如何せん、メジャー・デビューがボブ・ディランの「ナッシュビル・スカイライン」ということで、何だかフツーのカントリー・ミュージシャンとは一線を画すように感じてしまいます。

さてこの盤で彼はトラッド・ソング「Handsome Molly」をやっておりますが、これが気になります。この盤ではジャケ裏の曲名の下に誰が何を演奏したかという情報に加え、短いコメントが付けられています。「Handsome Molly」の場合は「One of my favorite old southern mountain songs.」と書かれております。この曲、ボブ・ディランもお好きなようで、60年代の初期のライヴでも演奏しているアイリッシュ・トラッドです。もっと言えば、ミック・ジャガーもソロ・アルバム「Wandering Spirit」のエンディングで歌っております。…あまりに唐突に毛色の違うのが出てくるのでビックリする、アレです。そこで、はて「southern mountain songs」とは何じゃらほい、こういう使い方をする言葉なんですかい?ということになってしまいました。

一年ほど前にハッピー&アーティ―・トラウムとマッド・エイカーズあたりのマウンテン・ミュージックについて書きましたが、あそこで言うマウンテンと同じ使い方と考えれば、古のカントリー・ミュージックということでいいのですが、源流地としてのアパラチア山脈あたりの意味で「southern mountain」と言っているんでしょうかね?でもそこにアイリッシュ・トラッドまで含まれるんですかね?

いろいろ検索したりして調べてみるのですが、例えば「Ola Belle Reed and Southern Mountain Music on the Mason-Dixon Line」という面白そうなCDをAmazonで売っているようなので、ポチっとやるかと思ったら、7万円以上していて、何じゃこりゃとなってしまいます。…でもその解説にはアパラチアン・ミュージックのグレーテスト・パフォーマーだとか書かれておりますから、まあ間違ってはいないのでしょう。

どうもノーマン・ブレイクみたいにボブ・ディランの周辺人脈とも言える人間が言っていることなので、違うとは言い難いのですが、この辺の人たちにとっては、もの凄く広い意味で使われるんですかね?そもそもボブ・ディランって、ヴィレッジあたりで歌い始めたころから、ウッドストック・コミュニティの主要人物たちと交流があったように、DVD「ノー・ディレクション・ホーム」で紹介されておりました。あの辺のひとたち、つまりジョン・セバスチャンやエリック・カズやマリア・マルダ―たちとも長いつきあいで、若い頃ステージでは「ハンサム・モリ―」を歌っていて、後に「ナッシュヴィル・スカイライン」の冒頭でジョニー・キャッシュとやっている「北国の少女」の後に出てくる「ナッシュヴィル・スカイライン・ラグ」に起用されたノーマン・ブレイクが「old southern mountain songs」だと言っているんですよ。…ちょいと引っかかるんですけど、いいんでしょうね。

いろいろ考えながら、調べたり聴いたりしていると、ミック・ジャガーが歌っている方がよほど自然なのか?という気もしますね。だって歌い出しが「I wish I was in London…」ですからねぇ。

ピエモンテ・ブルースまであるアパラチア山脈周辺、ルイジアナ州に近いと言えば近いですけど、ケイジャンだクレオールだといった場合と同様に、欧州カルチャーが入り込んでいるんですかねぇ。それをひっくるめてマウンテン・ミュージックだのカントリーだのと言っているんですかねぇ…。随分広く捉えるんですね。

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