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続・下町音楽夜話 0290「クエスチョンズ67/68の謎」

大抵の場合、自分は一度好きになると徹底して追いかける性質で、好きなギタリストなどはほぼコンプリートに集めて聴いている。ほぼというのは、公式盤に限られた話だし、プライベートな音源は掘り下げてもキリがない。ライヴ音源などは、収集するにしても限界がある。例えばジミー・ペイジやミック・テイラーといったギタリストが大好きで、可能な限り入手している。その一方で、エリック・クラプトンなどは、全般的にクオリティは高いが、玉石混交な部分は否めない。結果としてさほど熱心には集めていない。リリース数が多すぎることもあるが、小遣い稼ぎのセッションにはどうでもいいものも結構ある。

ブラスロック・バンド然とした初期のシカゴが大好きで、研究しているに近い聴き方になっている。一方でAORとなってしまってからのシカゴは全然興味がないので、他のバンドとは扱い方がまるで異なることになってしまうのだ。こういうメンバーで追いかけることなく、好きな時期とそうでもない時期があるバンドは他にない。ともあれ、5枚目までの男くさく、荒々しくもあるシカゴが好きなのだ。10枚目以降はほぼお付き合い程度で買い続けているといったところだ。

以前「長い夜」についての研究発表をしたこともあるのだが、最近気になっているのは「クエスチョンズ67/68」、つまりデビュー曲なのである。1968年に録音され、1969年1月にリリースされたが中ヒットにとどまり、「長い夜」の大ヒット後、1971年9月に再リリースされてようやく大ヒットに至った曲である。1971年の再リリースのタイミングでは、日本語で歌ったヴァージョンもリリースされた。面白いことにSideBは全て異なった曲である。1969年は「リッスン Listen」、1971年は「アイム・ア・マン I’m A Man」、日本語盤は「空想の色 Fancy Colours」となっている。何故かは知りようもない。

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今気になっているのは曲の長さが違う理由である。1971年はいずれも3分28秒に対し、1969年はスリーヴの記載は4分40秒、これに対してレーベルの表記は3分07秒、収録されている中身を実際に計測したら 4分40秒であり、単なるミスと思われる。実は、自分が持っている1969年盤は見本盤なので、サンプラー的に短縮ヴァージョンが収録されているのかとも思ったが違ったようだ。1969年盤はそもそも有名バンドとはいえデビュー曲なわけで、しかも大したヒットには至らず、結果として、中古盤市場にはあまり出回っていないレア盤なのである。普通の盤も確認したいのだが、なかなか手に入らず、調べようがないのである。

ちなみにアルバム収録ヴァージョンは5分04秒とやや長い。これに対して、1971年盤はやや唐突に終わる感があるが、短縮したい気持ちも分からなくはない。加えてアルバム・ヴァージョンよりクリアで鳴りがよい、明らかに別テイクである。イントロの長さがアルバム・ヴァージョンは44秒ほどに対して、71年盤は23秒ほど、しかもわざわざレーベルに表記してあるところが面白い。イントロの秒数をわざわざ表記してある盤は他にあるのだろうか。録り直したぞと言いたかったのだろうか?(追記:ソニー系を中心にいっぱい存在しました。オン・エア向けに表記したらしいということです。)

この盤に関しては、もっと謎な部分もある。シカゴのデビュー当時のバンド名はChicago Transit Authorityだったことは有名だが、シカゴ市交通局の要望で2枚目のアルバムからシカゴと短縮されることになる。それならデビュー盤の「クエスチョンズ67/68」はトランジット・オーソリティ付きでなければおかしいことになる。ところが、何故か「Chicago」になっているのである。その後いろいろなデザインで楽しませてくれた、あの特徴的なロゴはまだ見当たらない。スリーヴには「ニュー・ロックの可能性を追究し、未来を告げる期待の本格派登場!!」とある。いかにもデビュー・シングルといった文言である。ところが定価は400円、…おかしい。総務省統計局の物価推移の資料によれば、1969年時点では370円、400円に上がるのは1971年ということになっている。これはどういうことなのだろうか?

さらに面白いのが、その後CBS/Sonyとパンナムのタイアップで多く見受ける「AIR-PLAY SERIES」の文言が大書きされていることだ。しかもトレードマークの複葉機が大きく描かれているデザインになっている。そして、「Pan Am」の文字はどこにもない。これに関しては、Discogの情報によると、1969年から1972年までに存在するAIR-PLAY SERIESは少なくとも2種あるということだ。この書き方は、この初期タイプとPan Amの宣伝になっている袋がついていたりする「AIR-PLAY SERIES」のマークが小さいものが存在することを意味しているようだ。そして、集められた複葉機と文字が大きいものは10タイトル程度存在するようだ。ボブ・ディラン「レイ・レディ・レイ」やNRBQ「カモン・エヴリバディ」や、ティム・ハーディン、ジョニー・キャッシュなどである。そしてすべて1969年になっている。

もっといろいろ調べてみないと分からないことだらけだが、かなり情報が錯綜しているようだ。1969年に日本のCBS/Sonyが独自に始めたAIR-PLAY SERIESは少しお高めの価格設定で、そこにパンナムがタイアップとして乗っかってきたということなのだろうか。いろいろ考えるとその辺なのではと思うが、50年前の情報がこれほどいい加減になっているとは驚いた。当時の担当者だってまだご存命なのではなかろうか。実はウェブの限界を思い知らされる一枚だったりするのである。


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