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7インチ盤専門店雑記351「B面の愉悦9:CSNY」

B面の話題になると必ず意識させられる盤がありまして、CSNYの「オハイオ」なんです。アメリカの黒歴史と捉えるからか、最近では話題にすらなりませんが、1970年5月4日のケント州立大学銃撃事件は決して忘れてはいけません。その銃撃事件を題材にした曲が「オハイオ」なんですけどね。ニール・ヤングの作詞作曲で、オリジナル・アルバムには収録されておりません。ベスト盤には入っておりますし、1971年のライヴ・アルバム「4Way Street」でもやっておりますね。

当該事件ですが、ヴェトナム戦争真っ只中、中立国であるカンボジアへ米軍が爆撃を行ったことに対する抗議活動の最中に、オハイオ州兵が非武装の学生に対して銃撃したもので、4人が死亡しました。抗議活動中の学生のみならず、通りかかっただけの学生にも死傷者が出ており、大問題になったはずなのですが、忘れられてしまったわけでもありませんよね…。言ってみれば、米国版天安門事件です。都合の悪い過去に蓋をしたがるのは誰も同じですかね。

Atlanticのやったことには驚きとともに感謝するしかないのですが、実に珍しい黒アトランティックです。…見本盤だけじゃないですよね?この盤しか見たことがないもので…。放送局だか関係者だか分かりませんが、どういう気持ちで聴きましたかね。悲しみ以上に怒りでしょうか…。

そして、心に刺さる歌詞。思い切り直截的ですが、この言語感!出だしは「Tin soldiers and Nixon's coming」ですよ。自国の大統領の名前をこんな風に使う曲が他にありますかね?心が無いTin man、…簡潔に伝える技に呆然となりました。ニール・ヤングの凄みでしょう。

このスリーヴは思い切りシンプルでコメントや謳い文句は一切無し、モノクロの写真とともに、両面曲の歌詞が載せてあります。5月21日に録音し、6月にはリリースされます。動きの早さも注目しないといけません。繰り返しますが、オリジナル・アルバムには収録されていないんです。ベスト盤では聴けますが、このシングルを買わないと意味がないんです。

そして思うに、B面の「自由の値 Find The Cost Of Freedom」の立ち位置の何と微妙なこと。こちらはスティーヴン・スティルスの曲ですが、この曲、前年8月開催のウッドストック・フェスティヴァルで既に歌われているんです。スタジオ・テイクは「オハイオ」と同日にレコード・プラントで録音されています。…短いです。そしてウィキでは「頌歌」という言い方をしておりますが、いろいろに解釈できる歌詞をもったプロテスト・ソングとでも申しましょうかね。美しいコーラスが素晴らしいのですが、自分には鎮魂歌のように聴こえます。嗚咽のようにすら聴こえる、あまりにストレートな「オハイオ」と比べるべきではないのでしょうか。このカップリングでこそと考えるべきでしょうか。

ただねぇ、表面の写真はスティーヴン・スティルスですから、「自由の値」のために用意されていたもののように感じます。事件が起きて、ニール・ヤングがあまりにいい曲を持ってきたので、そちらをA面にしたのでは、と考えてしまいます。…そう思いませんか?とにかく、いろいろ考えさせられる一枚です。


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