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続・下町音楽夜話 0291「ヴァン・ヘイレンの効能」

コロナ禍の今年は異様に時間の流れが早い。残すところ2か月となったが、いっそのこと早く終わってくれと思わなくもない。例年11月12月はバタバタであっという間に過ぎ去る。今年はさらに早く感じることだろう。日々やりたかったことの半分もできていないような感覚で、ストレスばかりが蓄積されていく。これではまずいと思いつつも、加齢のせいか、動きは鈍いし疲れは抜けない。60歳なのだから当然だと諦める気にもならないが、現実は現実として受けとめつつ余計なことを考えないようにして、できる範囲内で楽しむしかないようだ。結局は思い切りハードな音楽などを聴きながら仕事をこなす日々になっている。

如何せん、レコードの枚数が多く、簡単に整理がつくものではない。一枚一枚に思い入れがあったり、関連する思い出があったり、それぞれで距離感が違うことも面白いが、一度好きになると、グッと距離が近くなり、なかなか遠ざかってはくれない。結果として距離の近い盤が増え、身動きが取れなくなっているということらしい。いつの間にか遠ざかっていて、久しぶりに針を落とした途端にまたグッと近寄ってくる盤は多い。一方で遠ざかってしまった理由を時間が知らせてくれるものもある。最近ではヴァン・ヘイレンのアルバムがいろいろ考えさせてくれ、面白い経験をした。エドワード・ヴァン・ヘイレンの訃報に接し、自宅にしまい込んであったLPを店に持ち込んで聴いたもので、ものによっては10年以上、ヘタをすると40年ぶりという盤もあることに気がついて驚いた。

要は同じグループなのに、好きな盤とそうでもない盤が随分はっきりしているのだ。1枚目2枚目は大好きで、店に置いてある。3枚目4枚目はリアルタイムで購入して、カセットテープに録音して少しは聴いたが、特別思い入れもない。5枚目「ダイヴァーダウン」と6枚目「1984」は店にあり、リクエストもよく受ける人気盤だ。自分も大好きなあたりである。ヴォーカルが交代してサミー・ヘイガーになってからの7枚目「5150」8枚目「OU812」もアナログで持っており、やはり店でかける機会の多い盤である。いずれもアルバム・チャートで1位になっているヒット盤であり、この時期は12インチ・シングルも何枚か買っていたりする。その後はCDになり、思い入れも一気に薄くなってしまう。

そもそも、自分の場合はモントローズが大好きなので、初代ヴォーカルだったサミー・ヘイガーもそれなりにしっかりフォローしている。一方でデヴィッド・リー・ロスはものによる。好きな曲もないわけではないが、サミー・ヘイガーほどしっかりフォローしているわけではない。ライヴが予想以上によかったこともあって、結局アルバムは購入しているが、今回久々に聴いて認識を新たにした。やはりそれほど好みではない。またポップ好きにとって、サミー・ヘイガー期のほうが店でもかけやすいと感じているのだろう。

昨日、常連のお客様からご要望をいただいて「ひたすらヴァン・ヘイレンを聴く会」を催した。一応一般に募集もかけたが、実に小ぢんまりとした内輪のイベントとなった。そこでさらに認識を新たにしたのだが、やはりデヴィッド・リー・ロスは女性に人気があり、サミー・ヘイガーが好きなのは男性のようだ。デイヴが好きな男性がいないわけではなかろうが、派手過ぎるキャラは色物的でもあり、好き嫌いは分かれるだろう。サミー・ヘイガーは全く色気のない男だけに、よくもこれだけ性格の違うヴォーカルを据えたものだと感心してしまった。そして約40年ぶりにちゃんと聴いた3枚目4枚目の曲は、いずれもデイヴの個性が前面に出ているものばかりで、「ああ、ここに原因があったのか」と思い当たってしまったのである。

そもそも、時期的に少々遅かったのだ。ヴァン・ヘイレンがデビューしてきたのは1978年、「ユー・リアリー・ガット・ミー」のインパクトは実に盛大で、即買いに走った。立て続けに出た2枚目も大好きな「ユー・アー・ノー・グッド」をカヴァーしていたり、ヒット・シングル「ダンス・ザ・ナイト・アウェイ」のようにポップな曲があり、やはり好きな盤だった。しかしその後、興味は続かなかった。すでにジャズやフュージョンに夢中になっていた時期だけに、テクニカルな部分は認めつつも、派手過ぎる演出は子ども向けに感じていたように記憶している。

加えてカリフォルニアのバンドだと言われても、知性の片鱗すら見せない売り方は、アメリカそのもののようにも感じたし、カリフォルニア幻想などと言いつつ、ヴェトナム戦争を思い切り引きずっていた時期のアメリカの負の象徴のようでもあった。パンク~ニュー・ウェイヴにも面白いものがあっただけに、70年代の古いスタイルのロックを引きずっているような気もしていた。

ただし、エディの猛烈なギター・テクニックはそういった側面を封じ込める強烈なものだったし、あのニコニコ笑顔で高速フレーズを繰り出してくる様は、アタマでっかちの評論を無意味にするだけのインパクトがあった。気合を入れてアタマをカラにした上でないと聴けないバンドだったが、人間時にはそういうものが必要だ。ストレス発散や気分のリセットには、効果抜群のギターだった。何だかんだ言ったところで、多くの時を共に過ごしたようなミュージシャンが亡くなることは寂しいものだ。

追記:ヴァン・ヘイレンに関しては、全アルバム、シングル、さらには12インチ盤等も買い続け、ライヴも何度も行ってますし、デイヴのソロ・ライヴまで観ているわけで、普通以上には好きなんですよ、もちろん。

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