飛行機を逃さないためにはなんだってできるのよ
飛行機のスケジュールはとても変わりやすい。
遅延、機材トラブル、キャンセル。
遅延とか、乗り継ぎは間に合うのかとか、フライトスケジュールの変更に対して不安を抱えながら旅行をしている人は多いと思う。
それは乗務しているクルーも同じ。
乗務するフライトが大幅に遅れたら、その翌日からのフライトスケジュールがガラッと変わることもめずらしくない。有給の予定が初日から崩れたりもする。
CAとして働きはじめの頃、先輩CAにあたるクルーがその日の機長 (初対面) に向かってこんなことを言っていた。
「キャプテン!私このフライト終わったら有給で帰国するから、◯時の飛行機に何が何でも間に合いたいの。ショートカットして!」
... 頭おかしいんか?
私情のために、飛行機に近道を飛べと堂々と言う女に驚きを隠せなかった、23歳の春。
月日が流れ、仕事にも慣れてきた23歳の秋。
「私この後、日本帰るフライト絶対乗りたいから、お客さん降りた瞬間使用済みブランケット爆速で集めて。このフライト逃したら次明日までないから、絶対に乗れる様に。お願い。」
くらいは、初対面のクルーに対しても言えるようになっていた。
そしてそのまた半年後くらいには、こうなっていた。
“Captain, I need to catch a flight after this.”
意訳: キャプテン、この後のフライト絶対乗りたい。
ショートカットしてくれとか、そんな犯罪ギリギリ発言は私は決してしていない。
ただ、「この後のフライト絶対乗りたい(意味わかるよね?)」と一言言えるようになっていただけ。(めちゃくちゃど厚かましい)
世界中飛び回れる仕事をしてても、住んでいる場所は異国のよくわからない砂漠の国で、やっぱり母国はいつだって恋しい。
待ち望んだ帰国の飛行機1本逃すって、大事件。
それは数年経っても変わらないようだった。
私が一緒に住んでいたインド人のルームメイト。
私がCA1年目の時、彼女はすでに6年目のベテランだった。
彼女が、仕事でコルカタという都市へのフライトが入っていた時のこと。
彼女はコルカタ出身なので、そのフライトがスケジュールに入った時からとても喜んでいた。
仕事で行くためフライトとフライトの合間の1日足らずの時間だが、母国で恋人に会えることを楽しみに、あと何日、あと何日と毎日の仕事を頑張っていた。
待ちに待ったそのフライトの前日。
飛行機のスケジュール変更に伴い、色々なクルーのフライトスケジュールも変更になり、彼女はコルカタへ飛ぶフライトのメンバーから突然外された。
SMSでその連絡を受けた彼女。
普段は平和な私たちの家で、Fワードが響き、大発狂が始まった。
「絶対に許さない。これを決めた奴を地獄に陥れる。」
ドラマ以外で初めて聞いたセリフだった。
ロスタリングという、スケジュール管理をしている部署に電話を始めた彼女。
「絶対に嫌!何と言われても認めない!!!」
「あなたに私の何が分かるわけ?!」
「私がどんな気持ちで今日まで耐えてやってきたのか分かる?!?!」
論理的に詰めるのかと思いきや、感情論1本で勝負している。
「スケジュール的にも違反にならないでしょ!
あんたには人の心がないわけ?!返して!私のフライトを返して!!!」
折れないクルーと折れないロスタリングのやり合いは数十分続いた。
どう収拾つけるのかと思ったこの戦い、
最終的な勝者は彼女だった。
Okay, thank you very much, my life is over.
(はい、ありがとうございました。私の人生終了。)
この吐き捨て台詞により、彼女はコルカタ行きフライトを取り戻した。
30歳手前もになる人間が仕事のスケジュール変更に関して、ありがとうございました人生終わりですと会社に言っていると思うとちょっとおもしろい気もするが、いたって彼女は大真面目だった。
そして、実際にここまで暴れるかと聞かれたら私には出来なかっただろうけど、そう言いたくなる気持ちはものすごく分かった。
フライト1本の重み。
行きたい場所にスケジュール通りに飛ぶことの大切さ。
機内で遅延によって大暴れしているお客様は幾度となく見てきたし、その度に、私にそんなこと言われて暴れたとて何も出来ませんがなと思ってはいた。
だけど、気持ちは痛いほど分かる。
日々飛行機を乗り回しているクルーだって、裏ではこんなふうにスケジュール変更に対して暴れ散らしてたりするから。