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【Review】 i/西加奈子


想像力で変えよう。

西加奈子さんの「i」を読んだ。
こんな時代が来ることを見透かしていたような作品。


養子として恵まれた環境に受け入れられた主人公が、必死に自分の存在意義を探してはもがき、苦しむ。なかなか読み手もエネルギーを消費する作品だった。私には経験できない「血縁関係の無い親にビクビクしながら育てられる」描写には非常に圧倒される。

”選ばれる”、という苦悩

私たちは、成績レースや出世レースをはじめとした、上に上にいくレースに身を置く人が多い。就職活動なんていい例だ。「内定者として選ばれる人間」になるために必死に武装する。ここでは「1番になりたくて」、みんな必死に頑張っているのだ。導かれたレールを歩むことは、一つの選択肢であるから、誰からも否定されるものでない。

一方で、作品中で主人公は「恵まれた自分」を思いきり非難する。

”シリア難民の中で私が選ばれてしまったせいで、
自分の代わりに苦しんでしまう人がいる”

ずっと怯えながら養子としての人生を歩んでいく。幸せになってはいけないと思い込む。度を過ぎた悲観主義者だ。どんなにネガティブな人でも、この本の主人公よりはポジティブなのではないかと思うほど。

”なぜ私が養子に選ばれてしまったんだ”

そう、世界には、選ばれたくて必死になっている人がいる側には、選ばれたくなくて必死だった人がいるのだ。「どうしてこんなに頑張っているのに報われない?」と嘆く人がいる隣に、例えば病気の人が「どうして私なんだ?」と選ばれることを悔いているかもしれない。

選ばれたかった人と、選ばれたくない人。
特別でありたい人と、普通でいたい人。

この対比に気づくこと、すなわち、自分と異なる視点を持つことで、世界の見え方が大きく変わる気がしている。


見える世界の広さは全て自分の想像力で決まる

自分の人生しか生きることができない時代(将来は人の人生を覗くことができるようになる気がしている)に、私たちが相手の気持ちを汲み取るためには、どうにか必死に想像力を働かせるしか術がない。
言い換えると、「想像力」があるのだ。想像力を働かせるには、今このタイミングは絶好のチャンスなのである!!!

周囲はコロナで大変そうなのに、自分にできることなんてない、と思っている人は、是非ともこの本「i」を読んでいただきたい。どうしてもここに記したくて、でもネタバレしたら駄目だよな・・・と我慢した、この本の末尾に、とっておきの魔法の言葉が書いてある。


未来のあなたは、とっても明るい。

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