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2020年3月29日の修斗と斎藤裕、そしてRIZIN

普段のnoteには、修斗の大会情報しか書いていないが、たまには、適当に記憶や思いを綴った散文でも書きたいと思う。

今回取り上げる斎藤裕選手ついては、修斗時代よりもRIZINからの新しいファンが圧倒的に多くなった。今回は、そういうファンにもお伝えしておきたい、RIZIN参戦直前の話を軽く書き留めておく。
書きたいと思っているテーマは、一時期、斎藤選手が自分の勝利のみにこだわり、大会を盛り上げる気がないのではないか、などと言われれていたことについてが一つ。もう一つが、格闘技を見るということ、斎藤裕という大河ドラマを楽しむことだ。

RIZIN LANDMARK5 平本戦を終えて

まずは、直近の試合について。RIZIN LANDMARK 5で平本蓮選手と対戦し、2-1の判定勝利だった。

「MMAでは、その人の全てが曝け出され、自らの生き様をぶつけ合うような試合が繰り広げられる」というのは、岡田遼選手が好んでよく使う表現だ。

特にトップ選手ともなると、取り組んできた時間の長さ、積み上げてきたものの大きさ、かかわってきた人の多さなどに比例して、その様は苛烈になる。
そして、その苛烈さは熱を帯び、本人だけでなく、さらに応援する人やファンを巻き込み熱狂となり、様々な思惑を取り込み、最高に昂揚する瞬間を劇的に作り出す。

今回の平本蓮選手との試合は、まさにそのような一戦だったと思う。
あれほどまでに斎藤選手を応援する声が大きく、熱く、高まったのは、試合に臨む斎藤選手の生きざまが、全国から多くのファンを惹きつけたということだろう。こういう試合を見届けられたのは幸運だった。

2020年3月29日 プロ修斗後楽園ホール大会

ところで、修斗には幻となった大会がある。2020年3月29日の後楽園ホール大会だ。
この大会で、斎藤選手はデュアン・ヴァン・ヘルフォート選手との修斗世界フェザー級王座の防衛戦が組まれていた。そのほかも、現在、UFCに参戦している平良達郎選手と達人・清水清隆選手の試合など新旧王者クラスが並ぶ豪華なラインナップだった。

この当時の状況を振り返りたい。

年末の海外で、後に新型コロナウイルスと判明する、未知の感染症の報告が入り始め、年始から日本でも話題となり、ダイヤモンドプリンセス号の件が連日ニュースを騒がせ、海外での感染の実態が把握されるにつれ、日本でも脅威となっていった。
自分の経験した例でいえば、2月26日のPerfumeの東京ドーム公演が当日に中止にされるなど、国や自治体からの大規模イベント自粛要請により、ライブやイベントの中止が増えていった時期だった。

当然、修斗もこの大会が開催できるのかどうか不透明な日が続いていた。
色んな情報が飛び交う中、運営の方々は、様々な圧力に抗いながら、開催に向けて色々と苦心されたと聞く。
しかし、斎藤選手の対戦相手のヘルフォート選手は、結局、渡航制限で来日できないことが確定し、急遽、対戦相手は内藤太尊選手に変更となった。
このニュースで、ファンも選手も、こんな状況下で本当に開催できるのかと疑念や不安を感じ動揺していたと思う。

それでも、前を向き、開催を信じて体重を落とし、ファンを思い、試合へのアピールを欠かさなかったのが、斎藤裕選手だった。
もちろん、斎藤選手だって、直前になって突然、対戦相手がオランダ人から日本人になり、ファイトスタイルも全く違う選手に変更になって、動揺がないわけない。というか、最も動揺する立場だったと思うのだが、気持ちを一つ一つ切り替えて発する前向きな言葉の数々が、ファンを勇気づけた。

当時の斎藤選手のツイートをかいつまんで紹介しよう。

仄暗い不安の中、光があることを信じて、等身大でできることを最大限にこなしてきた斎藤選手。

だが、連日の大会アピールもむなしく、天命は味方せず。
残念ながら、この大会は、3月26日に無観客試合への変更があり、さらに、翌27日に中止が発表された。実に、開催二日前のことだ。
ファンはもちろん残念だったが、出場選手が一番無念だっただろう。主催者もギリギリまで開催を模索しながら、最大限考え抜いた末の苦渋の判断だったと思う。

それでも、斎藤選手は明るく振る舞い、試合前最後の報告をしてくれた。

完璧な仕上がりだ。
競技者として、プロとして、見事な仕事。頭が下がる思いがした。

もちろん、他の選手も、試合がある前提で練習、減量はしていた(各選手が、計量当日の体重報告のツイートをしていた)。だが、斎藤選手ほど、事前にファンに向けて、大会を盛り上げようと試合をアピールし続けてくれた選手はいなかったと思う。発表から連日のように、#shooto0329 のハッシュタグを欠かさず、試合当日もこうしたツイートをしてくれた。

自分もファンとして開催を願っていたし、開催されるならば素晴らしい大会にしたいと思い色々発信していたが、結局、叶わなかった。自分としては、客観的には中止もありうると覚悟していたので、色々考えて、「仕方がない」としか言いようがなかった。

…仕方はないんだけど、やっぱり、どこにもぶつけようのない感情の突沸も起きる。それを、最大限の感謝を込めて推す力に変換して書いたのがこのツイートだ。

この時、思いもかけず、斎藤選手が引用リツイートしてくれて、これには泣いた。

俺は、斎藤裕を推すぞ。

その時、そう決めた。
別にこんなことを言ってもらえなくても、勝手に以前からずっと推してるわけだが、修斗ファンとしての感謝と、斎藤裕ファンとしての尊敬が、自分の中で同時に最大最高に達し、これで決定的になった。

な?斎藤裕は、「自分だけ勝っていればいいや」なんてことを言う選手ではないんだ、絶対に。わかるだろ?

RIZINの斎藤裕へ

修斗では、3月大会は流れたが、その後、無観客でテレビマッチをやったり、会場や進行スタイルを変えたり、綱渡り状態で色々と試行錯誤しながら、大会は続いていった。
しかし、斎藤選手の試合が決まったという報はなかった。一度機を逃してしまい、海外勢の招聘もできない状況では、修斗の中で斎藤チャンプの相手を決めるのは、難しくなっていたのだと思う。

そんな中、2020年7月に、斎藤選手のRIZIN参戦が発表された。

おおおお、マジかー!ま、摩嶋選手が相手か…という思いはあったが、もちろん、全力応援。応援しないという選択肢はないのだから。

ちなみに、まだ微妙に表記が違うが、「俺たちの斎藤裕」は、このころから使い始めた。
修斗ファンとして修斗王者に思いを託す気持ちはもちろん大きいが、もはや、修斗どうこうというよりも、常にファンに寄り添い、ファンのことを大事に思い、そしてファンからも支持される、People's Championとしての斎藤裕への敬意。そういったものを込めたつもりだ。

この後のRIZINでの活躍は、知っての通りだ。

見ただろ?これが斎藤裕、修斗の王者だよ。

斎藤裕という大河ドラマ

修斗編

斎藤裕選手という選手を改めておさらいしよう。

格闘技に対して実直で正々堂々。
その戦いで、人柄で、言葉で、行いでファンを惹きつけ、そのファンを思い、ファンととともに戦う選手。痛い負けもある。涙を流したことがなかったわけではないけれども、その涙は、次の試合の糧となる。生きざまのぶつけ合いになった時の斎藤裕は強い。

キャリア的には、インフィニティリーグに選ばれたあたりから、誰の目にも明らかな形で強さを発揮しはじめ、環太平洋王座、世界王座と順調に修斗の王道を歩いてきたといえる。
一方で、ファン目線で言えば、斎藤選手が世界王座を獲得して以降は、ライバル不在で、下から突き上げるべき若い選手が伸び悩み、修斗内での競争が若干落ち着いてしまった感じがあった。
また、より大きな舞台への挑戦権が得られないなど、内外の様々な事情が絡んで、決してご本人が望むような道筋ではなかったと思う。正直に言えば、同時代の修斗王者が、早々により大きな舞台で活躍するのを見ると、ファンとして、斎藤選手も早くこうなってほしいと願っていたこともある。
それでも、斎藤選手自身は、黙々と、責任感を持ってやるべきことをやり、間違いなく、あの時代の修斗を引っ張ってくれたことに本当に感謝している。

つくづく思うが、ファンが思いを託せる選手というのは限られていて、しっかり背負ってくれる人間にしか、強い思いは託せない。
そういう意味で、修斗のファンは運が良かった。斎藤裕がいたのだから。そう思う。

RIZIN編

他の修斗王者に比べれば、大ブレイクしたのは若干遅咲きだったかもしれないけれども、その力が衰える前に、本来の実力を発揮できるRIZINという舞台に上がり、強豪に挑み、多くのファンに認められ、支持される選手になってくれて、本当に良かった。
彼は、伏龍の期間を経て、RIZIN参戦という乾坤一擲の勝負に勝ち、自分の人生に間に合った。

そして、まだ道は続いている。RIZINでも、皆が色々思うところはあるように、苦しい時期も乗り切っての、大興奮の平本戦の勝利だ。

これは、自分が好きな例えなのだが、格闘家の物語は、大河ドラマのようなものだと思う。
MMAの1R5分の試合が2R、3Rと積み重なり1試合となるが、その1試合はあっという間の出来事だ。メディアのレポートでは数行で済まされてしまうかも知れない。
しかし、その短い試合に至るまでの背景や、試合そのものを中心とした物語が束になり、層を重ね、次の試合へと連なっていくことで登場人物は増え、伏線が生まれ、やがて、雄大な大河ドラマとなる。

MMAファイター斎藤裕という大河ドラマは、修斗編からRIZIN編に入り、まだ物語の佳境は続いている。
これだけ熱くさせてくれた平本選手との試合も、まだ長い物語の中の一章だ。途中から見ても絶対に面白いこの長大な物語は、今からでも見逃さないでほしい。

おまけ

幻の2020年3月29日プロ修斗への感謝と応援。

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