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人生にもしも…なんてないけど ⑫非日常 入院 もしも...

「施設から”(母が)朝食も食べないし、様子がおかしいので病院受診します。”と電話があったんじゃ」と父はゆっくり話し始める。
いつも”家族受診”の問題が発生するので施設からの電話にはドキっとしたが、この時はコロナ禍で初めてよかったと思った。
安心したのもつかの間、
「もうダメかもしれんのんといや。このまま食べれんかったらできることもないんじゃと」と。
「は?」
言っている意味がわからなかった。
(延命行為を望まない以上)このまま食事がとれないなら、あと1~3週間かもと。
「ま、とにかく、そういう状況じゃけーの」と言うと、父は電話を切った。

電話を切ると、あっ!あの数日前の面会時、部屋に入った母が満面の笑みを浮かべたと思ったのは気のせいではなく、最後だからそう見えたのだろうか?
ドキドキしてきた。
そして、外出しようと使い捨ての不織布マスクをつけようとしたら、右耳のひもがブチっと切れた。
まさか?!
いや、切れることもある、と自分に言い聞かせたが、追い打ちをかけるように、テープで補修をしていた部分が摩耗してちぎれた。
こんななんでもないことでも、もしかしたら…?と体がきゅーと冷えた。

どうしよう…何を思えばいいんだろうか?
会うたびに空虚な表情の寝たきり老人となっていく、刺激のない生活を送ることが母の幸せなのだろうか?
あの時の満面の笑みが母の“ありがとう”という気持ちなら見送るべきか?
だけど、このまま会えずにお別れはやっぱり寂しすぎる。マッサージしたり、母の好きなものを食べさせたいし、もっともっとニコニコする楽しい時間を過ごしてからにしてほしい。
お医者さんがダメかもって言っても(医者の立場では悪い方を強調するものだ)、母は尿路感染じゃ、インフルエンザじゃとその都度、元気になって退院して生命力は強いと思っているから、今回もまた口から食べられるようになってまた施設に戻れる!ひたすらそんな風に願った。

そして、数日後、病院に電話すると「口から食事も取れています」とのこと、よかった~と一安心。

数週間経ち、お昼に父から電話があった
母のことだと思い、「どうしたん?」とすぐに出ると
父は「母さんが、母さんがっ…」と次の言葉が出ない
どうしたんだろう、食事はとれるようになったと聞いていたのに、何があったんだろう?
「お母さんがどうしたんっ?!」
「母さんが、母さんが」、「退院するんじゃとっ」
「だーー、なんでそれ、さらっと言えんのんっ、びっくりしたーーー」
父はへへっと小さく笑いしながら
「わしもさっき病院からの電話でびっくりしたんじゃ」と嬉しそうに言った。

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