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父性と母性の違いを恨めしく思った(3)

父性と母性に対する長男の行動

父性と母性と言われても最初はよく分からなかった。しかし夫と役目を交代して見えてきたのは、長男が母親には求めても、父親には求めないことがあるということだった。

私がいるとこうなるのだ。

長男:おかぁ、ちょっと抱っこ

私 :あんたそれお父さんに言いなよ。今は勉強中の事は全部お父さんになってんだから。

長男:いやちょっとそれは・・

本当に頻繁に目を盗んではくっつきにきたり、ケツを叩いてくれ、頭撫でてくれ、「おかぁ、俺おかぁの事大好きなんだけど、その辺のことわかってる?」と絡んでくる。「5分だけマッサージお願い」とか、そういうのが多いのだ。

以前からこういった姿はあったけれど、今は夫が見ていない時を狙って来るようになった気がしている。

もう少し驚く事もあった。私が在宅勤務をしていた日で、ミーティングを始めようかという時の出来事だった。

そのタイミングが長男が塾に行く時間と重なっていたのだが、どうやら私に話しかけて抱っこしてくれと言ったらしいのだ。しかし私が喋る予定だったこともあり、意識が完全に仕事の方に行っていて、長男が話しかけたことに気づかなかった。

そうしたら突然長男が筆箱を床に投げつけて、床に突っ伏してしまった。物を投げる子ではないためびっくりしたのと、ミーティングが始まると伝えていたのに迷惑極まりないと思って、「どうしたの!?」と訊いたら、「お母さんが全部悪い!」と吐き捨てて、塾に行ってしまった。

夫にこの話をしたら、塾に行く前に甘えて最後の一押しが欲しかったのだろうと言っていた。実際その通りだった。夜遅く塾から帰宅した長男は冷静さを取り戻していて、訳を説明してくれたのだった。

この日、ミーティングより前にはちゃんと抱っこしたり、ふれあいタイムは取っていた。十分満たされているはずと思っていたから、こんな反応になるとは思わなかった。

そして、この甘えるという行為が、父親に対してはそもそも発生しないのだ。だから”私さえ同じ空間にいなければ”勉強モードが継続しやすい。

また見ていると、夫が「そろそろ勉強に戻れ」と言うと、それはサポートと感じるようなのだ。これはいかんともしがたいと言うか、これぞ父性と母性の違いだろうなと思った。

私が同じことを言うと、「わかったわかった!」と言って前向きに勉強に戻る時と、「お母さんが言うから、やる気なくなった」となるパターンが半々で、割と分かってほしい気持ちを出して勉強にすぐに戻らないこともあったと思う。

これだけ父親と母親に対して反応が違うと、夫がやっている時間管理を私が真似したところで上手く行くとは思えなくなってくる。

めでたしなのか?

夫と交代したことで、進捗管理が上手く行っているのと、長男が甘えたい気持ちを出さなくなったことで、物事がスムーズに進むようになった。先生からも褒められるし、長男もそれは嬉しい。

ただ忘れてはいけないのは、長男が甘えたい気持ちを出さなくなったからといって、それが消えたわけではないという事。

「お母さんが全部悪い」わけがないのに、そう言い捨てたり、塾に行く直前に抱っこを求めて最後の一押しを必要としたことは、塾のストレスが無関係ではないと思う。

この甘えは、どこかで出せなくてはいけない。最近相談するようになった子育ての支援担当者(男性)からも、長男の甘えたい気持ちが必ずや満たされるようにしなければと言われた。そして長男はその役目を母親に強く求めている。

思えば、塾は甘えを許さない。塾が厳しい分、その反動が家で出るのは当然だろう。それに父親も、母親にだけ見せる長男の姿を見て、「甘えてるな~」と言ったりする。特段ネガティブなトーンはないのだ。でもここに母性的な要素は感じづらい。

塾の課題が順調に進むようになったことだけを取ってめでたしとするのは危険だと私は認識するが、塾はこれが期待通りだし、夫もフォーカスは進捗の方にあると思う。夫は、週末に私がいないほうが家庭学習がはかどるし、下の子が騒がしくないほうが良いからと、次男と長女の習い事を増やして私も含めた外出時間を増やしたいと提案してきている。

長男も、受験という目標に向けては塾の先生がいることは大きいし、そこに父親のサポートが加わることは心強い。辛い部分だけ母親に受け止めてもらったら、あとは塾の先生や父親を含め、父性から叱咤激励してほしいと、そういう事を言っていた。

だから、母性的なサポートであっても、父性が求めるものとバッティングすると感じる時は、長男は母性に対して抗って来る。例えば、私が睡眠時間を重視して寝かせようとしていることについて、「お母さんは受験の邪魔をしてきてる」と言ったことがあった。詰め寄って叱ったら、「本気で邪魔してきているわけではないけれど、結果的にそうなっていると感じる」と言い直していた。

長男は私に抗いつつも甘えたい。どの場面でそうなるのか、長男の望んでいることは極めて明確でわかりやすい。

父性と母性がそれぞれ安定して役目を果たせれば、長男の精神的な安定にもつながると思う。今はその方向でやって行こうと思っている。問題があるとすれば、週末に一歩も外に出ない生活に夫も少しずつストレスを感じ始めていること、また長男の忘れ物が直らず夫が「いい加減にしてくれ!」と言うことも出てきていることだろうか。

私は週末にずっと缶詰になるストレスは理解できるし、それを子供がやっているのも異常だと思うから、実感したなら塾に相談する選択肢はあると思う。でも夫はそこは塾ではなく、むしろ私に理解や協力を求めたいそうだ。

家庭で抱えるには限界もあるよ、ということは伝えた。相談や頼るということは、父性の方がどちらかというと、やれなかったり、やりたくない気持ちがある気がするが、夫の方が時間軸を長く持っていて、私の方が目先の問題解決に走りがちということもあるから、どちらも善し悪しだとは思う。

今、色々とあって子育ての相談を複数の窓口にしている中で、担当者の方々からは、家庭内の歪や長男との関係がこじれる背景には塾の大変さがあって、長男の特性を考えても課題の課し方などは塾側で環境調整が必要と言われている。もうここは、どこに相談しても驚くほど一貫している。こんなに共感が得られるのかと驚くほどだ。

夫にも相談したことは共有しているが、夫は、相談センターが受験に関して何かしてくれるわけではない中で、こういった考えには賛同していない。環境調整をするなら家庭ですると言っている。長男も塾に調整の依頼をするようなことは先生の反応を考えても望んでいない。

受験が終わるまではもうこのまま突き進むしかなさそうで、相談担当者からは、ならば何があっても私が安定して母性の役目を果たせることが重要で、そのためにも、とにかくまずは自分第一で休んでくださいと言われた。しんどい思いがあったら、全部相談で聞くから、そのために我々がいますからと言ってもらっている。

担当者からの助言も夫とは共有しつつ、父性と母性の役割の重要性という点では家庭内で認識も一致しているため、そこが崩れない様に意識していこうと思っている。

具体的には、私は受験の直接的なサポートからは離れて、長男が甘えたい時に徹底して応える、長男の求めが過剰に思えても私がそれを指摘するのではなく、夫が必要なら指摘するだろうから任せるようにし、少し前までは夫がそろそろ注意しにくるからと私が長男に勉強に戻るように促すこともあったけれど、それも無理にやらないでおこうと思う。

長男は自分の意思で、ひとしきり甘えたら、「おかぁ、じゃ俺そろそろやってくるよ」と言うことが増えている。長男が一番良いペースでやれるように、親がメンタルを健全に保つように努めようと思う。