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従来の推定より深刻だった低線量被ばくの「がん死亡リスク」


医療被ばくなどの対策強化に期待

米英仏の共同研究(INWORKS)で明らかに

 原子力発電所などで働いている放射線業務従事者、約31万人に対する国際疫学研究で、低線量被ばくによるがん死亡リスクは、従来の推定より高いことが明らかになった。研究チームは、現代社会の主要な関心事となっている医療、職業、および環境における低線量被ばくの防護策の強化に役立つ結果だ、としている。

 この国際調査は、INWORKS(インワークス)と呼ばれている。1944年から米国、英国、フランス、3カ国の作業員、約31万人(うち女性4万人)に対して、70歳近くまで追跡調査したものだ。これまで約3万人が、がんで死亡している。

 「今回の調査結果で最も有益だ」と研究チームが強調している点は、累積線量で0-100mGy、および0-50mGyの低線量域(以下の添付資料)で、放射線被ばく量と固形がん死亡率の間に正の相関があることを明らかにしたことだ。広島・長崎の原爆被爆者の寿命調査(LSS)による解析では、被ばく線量とがん死亡率との間に有意な関連が観察される最小の被ばく線量レベルは0-150mGyだった。つまり、今回の研究結果は、それより低線量域で、被ばくによるがん死亡リスクが上昇することを証明したことになる。

赤線で示した <100mGy および <50mGyの低線量域で、放射線被ばく量と固形がん死亡率の間に正の相関がある。
EER(過剰相対リスク)は <100mGy以下の方が大きいので、グラフにしたときの線量反応曲線は、100mGy 以上の高線量域より急勾配になる。

 さらに重要なのは、次の点だ。この研究(INWORKS)で推定される放射線被ばく量と固形がん死亡率の関連は、20-60歳で被爆した広島・長崎の男性被爆者のがん死亡率より統計的に有意に大きかったことだ。100mGy以下の低線量被ばくにおける線量反応曲線は、高線量域までをも含めた線量反応曲線より急勾配になる(上記の添付資料)。つまり、原爆被爆者から得られたデータから推定されたこれまでのがん死亡確率より、実際の低線量被ばくのがん死亡確率は高い、ということになる。

 この研究では、発がんに影響を与える放射線以外の要因、喫煙とアスベストについて検討したが、今回の解析結果に、喫煙とアスベストは影響していない、と結論づけている。

 多くの発がん物質は、発がん性が確認されると同時に環境中から減少、もしくは除去されてきたが、CT検査などの普及で、医療被ばくは増加している。ただし、放射線業務従事者の年間被ばく量は、ここ数十年、一定の水準を維持していて増加はしていない。



この記事は、以下の論文を訳したものです。
Richardson DB et al., (2023) BMJ, 382: e074520

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