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散歩に行った

母校である小学校の裏に流れる小川。いつもの散歩コースに含まれてるそこには、この時期になるとホタルが飛ぶ。
気持ちが落ち着かないので、もうすぐご飯の時間だったけど、父とそこへ向かった。

歩きながら父と話す。
早く死にたい。いつになったらうつ病が治るの。診断されてから4年も経つのに、一向に良くならない。もう疲れた。終わりにしたい。死にたい。

父は「うん、うん、そう思っちゃうよな。苦しいな。」と言った。

そのまま黙って歩く。日が沈んで、涼しくなってきた。


小川に着いた。
今年のホタルの観測数が、カレンダーに書き込まれている。

6月1日、0
6月2日、0
6月3日、0

6月20日、0


10年前、ホタルが何十匹と飛んで、人で賑わっていたこの場所にも、終わりがきたのかもしれない。

確か、うつ病になった最初の年に見に来た時には、3、4匹見たはずだ。今年はその仄かな光を見ることなく、小川を去った。


帰路につきながら考える。
死にたい。父も母も、誰も私のことを助けてはくれない。自分で自分を助けるしかないのに、それができない。
今渡っている橋から落ちたら死ねるかな。遠くに見える高いマンションから飛んだら死ねるかな。

暗い道が怖かった。


父に手を繋いで欲しかった。今よりもっと病状が悪かった時、外出する際は、急に死に向かって走らないように、いつも父か母に手を繋いでもらっていた。今思うとかなり恥ずかしいけど、それがないと出歩けなかったことを思い出す。
「手を繋いで欲しい」の一言が、口からポロッと出ないように、必死に口をつぐんだ。それを言ったら、父は嫌がらずに手を繋いでくれるだろうけど、甘えちゃいけない、頼っちゃいけないと思って、私は黙り込んでしまった。


家に帰る前に、コンビニに寄った。
散歩ルートからコンビニへの道は、近所の大学の通学路と被っている。大学生が楽しそうに話す声が聞こえた。
耳を塞ぎたかった。大学に通えるお金があって、楽しく話せる友達がいて、羨ましかった。眩しかった。そんなふうに恵まれている人たちの話し声なんて聞きたくなかった。
ずっと下を向いて、目を凝らして、暗い地面に落ちた葉を踏まないようにして歩いた。



家にいてもグズグズ腐っているだけかと思って散歩に出てみたけど、結局余計に自分を追い詰めただけだった。
そんな夜だった。

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