【短編小説】性別が変わる世界で働く
「生まれたときから性別が変わらない動物って多いらしいよ」
「マジで!?意味わからないね」
そんな会話を大学生の頃にしていた。
現代人は無性→女性→男性→無性と変化するため、それが当たり前だと思っていたのだ。
私は今年で22歳になる。
女性化が遅いほうで、20歳でやっと女性となった。早い子は15歳で女性化したのに…。
女性化していく段階で胸が大きくなったり、くびれができたりして、服が変わってくる。
20歳近くなると、ほとんどが女性となるので、サイズの合う服を選ぶのに苦労した。
そんな漠然とした他人への羨望はふとしたごとに心に浮かぶが、そんな雑念を振り払って目の前のPCに向かう。
(でも…ダメだ…、体調が悪い…)
生理2日目で、体がだるくてお腹が痛い。
さっきから体調が悪くて、そのせいで過去のモヤモヤした気持ちが沸き上がってくる。
(諦めて、休ませてもらおう)
最近性転換が終わって最近男性化が完了した上司に相談する。
「あ~、君は生理が重いほうなのか。俺の友達も大変そうだったからね。休んでいいよ」
あっさりと理解してもらえる。
「じゃ、その資料、私…じゃなかった、俺がやっておきますね。貸し一つ(笑)」
軽い口調で数歳上の先輩のサポートが入る。
ちょうど性転換中で、一人称を変える練習をしているのだ。
普段だったら「また間違えてますね~(笑)」と茶化すのだが、今はそんな余裕はない。
「お願いします」
覇気のない声でそれだけ言うと、本当に大変だと思ったのか
「もう使わないホッカイロあるけど、いる?」
と気を利かせてくれた。
「ありがとうございます」
とここは素直に受け取る。
実際ありがたかった。
私は仮眠室で、動けるようになるまで休んでから休憩することにした。
翌日、体調も良くなり気分よく会社へ向かう。
途中、先輩へのお礼も買うことを忘れない。
「う~ん、性別が変わると好みが変わると聞くけど…性転換中の先輩には、どれがいいんだろう?」
おいしいコーヒーにするか、甘いスイーツにするか、迷うところである。
もちろん、好みの変化は人それぞれで、変わらない人もいれば、正反対になる人もいる。
先輩は性転換が始まってからまだ1か月くらいだから、聞いていなかった。
結局決められなかったので、一緒に食べようと思って、コーヒーを2つとスイーツを2人分買った。
会社に到着すると、上司や先輩に昨日休ませてくれたお礼を伝えた。
上司も先輩も「みんなあることだから気にしなくていいよ」とあっさりしたものだ。
ありがたさを感じながら、先輩にお菓子を差し出す。
「お礼として、スイーツとコーヒー、買ってきました。一緒に食べましょう」
「お、気が利くね~。最近甘い物への欲求が強くなっていたからありがたい!」
(なるほど、先輩は好みが変わらない人だったか。)
コンビニでの葛藤の回答が得られたので、頭の中にメモすることにした。
そういえば、1000年くらい前、人間は性別が変化しなかったらしい。
その時、私のように体調が悪くなる人はどうしていたんだろう?上司に相談できたのだろうか?理解してもらえたのだろうか?
先輩へのお礼を買ったコンビニで見た『性転換がなかった時代は地獄だった!!』という見出しの雑誌が置かれていたことを思い出し、少し背筋が冷える感じがした。
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