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【読書感想】2度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む5 虚栄浸りの村人

 こんにちは。
 今回の投稿は『二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む5 虚栄浸りの村人』の読書感想です。
 私は全8巻の中で5巻が一番好きなので、つい……分量が多くなると思うのですが、致命的なネタバレ(復讐の詳細)が無いようにがんばります。


◆こんな方におすすめです


 ・過激な復讐モノを探している
 ・理不尽に大切なモノを奪われ、やさぐれている
 ・美少女は狂ってても好き
 ・グロ描写にはそこそこ耐性がある
 ・昏い喜びを味わいたい

1.5巻ってどんな話?


 魔術師ユーミスに続き、商人グロンドへの復讐を終えた二度目の勇者一行。
 冒険者として生計をたて、今後の復讐に備えてLvUPを考えた彼らは、魔法国家の都、カーバンヘイムにて勉学の道を選ぶことに。
 しかし、その学び舎はミナリスと仇を引き合わせます。
 幼馴染みの少女ルーシャと少年ケリル。
 獣人への差別意識が根を張る閉鎖的な村で、ミナリスに濡れ衣を着せ、母マーリスと共に奴隷として売却されるきっかけを作った2人です。
 海人君と同じ地球人、レオーネを交えつつ、復讐劇の幕が上がります。
 辺境の村を真っ白に染める悪夢を、どうぞお楽しみ下さい。

2.注意するところは?


 虫描写です。
 虫にたかられて、ムシャムシャ……食べられるシーンがあります。苦手な人は避けた方がいいかも。
 別に私も得意じゃないですが。

3.5巻の見所

・落とす前に持ち上げる


 数年前のミナリス追放時には一般村人だったルーシャとケリルも、カーバンヘイムではスターとなっておりました。
 故郷を離れ、幼馴染みと支え合って努力。模擬戦ではライバルと全力を出しきって戦い、勝利するのです。
 拍手喝采の中、卒業後の仕官と結婚が発表されるという晴れ舞台。
 昔、彼らが無実の母子を追放したなどとは誰も知らない、この世の春がそこにありました。
 でもそれは、地獄に落ちる前のつかの間の幸せ。
 いつまでも続くと思っていた日常は、唐突に壊れてしまうものなのです。

 この茶番劇は私がかつての職場を去った日によく似ているので、ルーシャとケリルの破滅を期待して胸を高鳴らせる、お気に入りのシーンです。
 
 そして、全てを失う前のミナリスを知っているレオーネの視点を挟むことで、彼女の覚悟と狂気を描いています。
 もう戻れないんですよ、レオーネさん。

・ルーシャがミナリスを追放した動機


 『ミナリスが恋敵として脅威だったから』につきるでしょう。

 ルーシャはケリルを心底愛していました。彼に振り向いてもらうため、おしゃれに励み、料理で胃袋を掴み、カーバンヘイムでは『正義の味方になりたい』と望む彼の隣に立つべく、魔法と戦闘技術にも熟達した訳です。
 これぞ涙ぐましい努力、愛のなせる技と言えましょう。

 そんなルーシャにとって、ミナリスは親友であると同時に心配の種だったかもしれません。
 何せ、好きな人のそばに自分と同じくらい可愛い子がいたら、気に病まず「彼は私を選んでくれるわ!」なんて思えるでしょうか。
 ミナリスはケリルに恋をしていませんでしたが、いつまでもそうだとは限りませんし。
 そのミナリスが実は獣人であったという事実は、3人の関係を壊す激烈な優位性になり得ます。
 なぜなら『獣人に対する差別意識のある村』に生まれてしまったミナリスを、『正義の味方になりたい』ケリルは助けるはずだから。
 人間に生まれてしまった身では、絶対に割り込めない関係です。
 だってルーシャは『いわれなき差別に苦しむ可哀想な女の子』ではありませんから。

 しかし、ピンチはチャンスとはよく言ったもので。
 この秘密は、ケリルをとられてしまうという危機感にかられたルーシャが、ミナリスに対抗する切り札にもなりました。
 それが『身体能力で勝る獣人が人間をいじめている』という悲劇をねつ造し、弱者となってケリルに助けてもらう方法でした。
『魔物に襲われた時、ミナリスが正体がばれるリスクを犯してでも、獣人の力をふるって助けてくれた』という事実は、良心の呵責として機能しなかったようです。
 

・ケリルがミナリスを追放した動機


 こちらは単純ですね。『正義の味方になりたいから』でしょう。

 私が思う『正義の味方』は『不当に虐げられて泣いている人を助けてくれる』ような人を指すのですが……どうもケリルは、正義の味方になるために、倒すべき悪に存在して欲しかったようです。
 ミナリスを悪と断じ糾弾したのも、いじめを許さぬ正義感と共に、悪い奴をやっつけて正義の味方になりたい、という気持ちが無かったとは思えません。
 この短絡的な思考ゆえに、再会したミナリスが『ルーシャがいじめをしていた証拠』を見せた時、あっさり信じてしまったんでしょう。
 私としては、結婚まで誓った女性を潔白だと思って欲しかったのですが、正義の味方になる方が、ルーシャよりもずっと大事だったようです。
 むしろ『道を間違ってしまった幼馴染みを説得する正義の味方』という美談に酔っている印象すら受けました。
 これではルーシャがいくら献身的に尽くしても、彼女が怪我や病気で戦えなくなろうものなら、笑顔で捨てて、他の女性に乗り換えそうです。モテてましたし。
 だからこそルーシャは、ミナリスやカーバンヘイムの女生徒達を排除して回らねばならなかったんでしょうね。

4.無責任な第三者が考える『ルーシャはこうすれば良かったのに』

 ルーシャが復讐されずに幸せになるにはどうすれば良かったのか、考えてみました。

① 『ミナリスが獣人である』と村の皆に明かす。
  →いじめのねつ造はしない

② その後すぐにミナリスに『皆に無理矢理言わされた』と嘘をつき、謝罪

③ ミナリス母子に『ミナリスのお父さんと皆が獣人を追い出そうとしている。今のうちに逃げて』と勧める。『あたしのせいでごめんね』と謝罪。
 →こうしておけば、たとえ過酷な逃亡生活で母が死んでも、ミナリスの恨みは父と村に向く。

④ 母子が逃げた後、ケリルにだけ『魔物に襲われた所を助けてもらった』と打ち明ける。『皆に無理矢理言わされた』嘘は継続。『救われたのに、ミナリスを守れなかった』と悔やむ演技。逃亡幇助は秘密にする。

⑤ ルーシャを信じるケリルと秘密を共有し、2人で『ミナリスと再会できたら、今度こそ助けられるように強くなろう』と誓う。結婚してハッピーエンド。
 
 よし、こうすれば生きて幸せになれるぞ!(たぶん)
 原作通りでも、ミナリスが海人君に出会いさえしなければ、ルーシャはハッピーウェディングを達成できたのですが、世の中うまくいかないものですね。

6.無責任な第三者が考える『ケリルはこうすれば良かったのに』

 ケリルが復讐されずに正義の味方になるにはどうすれば良かったか、考えてみました。

① 『獣人を追い出せ!』と息巻く村人達をなだめる

② 村に染みつく獣人差別の根深さを悟る
 →この時点で、ルーシャプランによりミナリス親子逃亡済み

③『正義の味方』だったら、幼馴染みを差別から守らなきゃ! と奮起する
 →ルーシャに助けを求め、相棒として遇する

④『正義の味方』としてルーシャと共に差別と戦い、打破する

⑤偉業を成し遂げられたのはルーシャの支えがあったから、と感謝し結婚。ハッピーエンド。

 ルーシャプランと比べると、とてつもない茨の道ですが、こっちの方がずっと正義の味方っぽいです。後世にまで名が語られるでしょう。
 すごい! すごいよケリルさん!

7.まとめ


 ・『二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む』5巻は、ミナリスのセンス爆発、持ち上げてから落とす復讐が楽しめるよ!
 ・海人君以外の地球人、レオーネも登場するよ。彼女が言う『きれい事』の通りになれば良かったのに。
 ・ミナリスの復讐は完結するけど、話は次巻に続く展開になってるよ!

 では、長い記事をお読み頂きありがとうございました。
 あなたが素敵な本と出会えますように。

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