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トラック野郎 爆走一番星(1975)

トラック野郎 爆走一番星(1975、東映、96分)
●監督:鈴木則文
●出演:菅原文太、愛川欽也、あべ静江、春川ますみ、加茂さくら、研ナオコ、夏八木勲、織本順吉、山城新伍、田中邦衛

トラック野郎シリーズの2作目。

冒頭は新潟、メインは姫路~博多~長崎あたりが舞台になっている。

フォーマットは前作を踏襲しており、桃次郎が便所にかけこもうとするところで本作のマドンナ瑛子(若い頃のあべ静江がかわいい!)に出会い一目惚れをする。

ウンコするための紙を貰う瞬間にロマンスが生まれ得るということを肯定する世界観。それが『トラック野郎』。

瑛子が太宰治が好きと知った桃次郎が慌ててエロ本の屋台で太宰の本を買おうとするもあるわけがなく、あったのは「オナニーする女子大生」なるエロ本。

そして何とか手に入れた太宰の全集をこれ見よがしに脇に何冊も抱えて登場するシーンは最高すぎる。

もう一人のマドンナ千秋がバキュームカーに乗って登場するシーンでは当然と言わんばかりに糞尿がまき散らされる。が、村上春樹も『1Q84』の中でこんなことを書いている。

チェーホフがこう言っている。物語の中で拳銃が出てきたら、それは必ず発射されなくてはならない」、と。

つまりトラック野郎でバキュームカーが出てきたら、必ず糞尿がまき散らされなければいけないのだ。

お風呂を借りたアパートでの会話の様子を外から聞く釜太郎(ラビット関根)は二人が結ばれたと壮大に勘違い。

3分に1回は「くっだらねえ」と言わせてくれる、知能指数ゼロ地帯を爆走する前半の展開。

しかし中盤にさしかかるとだんだん人情ドラマへと路線変更していく。

ジョナサン家の10数年目の新婚旅行で出かけた長崎で、一行は出稼ぎに行った父親の帰りを待つ二人の姉弟と出会う。

街案内をしてくれたお礼にお金を渡す桃次郎たちだが、泣きわめく弟を引っぱたいてそのお金を返却する少女。

もちろんジョナサンの松下家といえど裕福とは言えないが、養女の由美を加えた9人の子供と暮らしていくだけの収入と職はあり、そこの対比がもの悲しく浮き上がる。

さらにライバル役として登場したボルサリーノ2(田中邦衛)も単なる当て馬的ポジションではなく、畑を売ってトラック乗りになったという台詞があるように一次産業から物流業へと日本の経済成長の転換期の中で振り落とされた者たちの悲哀をバックボーンに持つ人物として描かれている。

市民なんてどこにいる?金持ちと貧乏人の二通りじゃねえか!」という台詞が印象に残る。

また、他にも千秋に恋をする警官や、瑛子と義兄との物語、そして長崎の姉弟の元へ大晦日までに父親を届けられるかというクライマックスまで要素が盛りだくさんで、決して飽きることがない素晴らしい娯楽作。

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