エッセイ : ひとり旅で食べた朝ごはん 1 駅蕎麦 学生時代の僕のひとり旅を支えてくれた安くて温かくて美味しい朝ごはん

欧州で食べた朝ごはんシリーズと平行して、僕の学生時代の金欠ひとり旅で食べた朝ごはんシリーズも書いていきたいと思います。 
僕がひとり旅をしていたのは1981年〜1984年です。

駅蕎麦と言うと蕎麦通と言われている人はいいことを言わない。だが僕は駅蕎麦は美味しいと思う。
立ったまま食べなくてはいけないが、僕はそれがいいと思っている。

僕は大学生の時にひとり旅をしていた。
お金が余りなかった僕は、移動手段は各駅列車。
特急列車や高速バスは使えなかった。
僕が大学生の頃は、僕のように余りお金を持っていない学生は遠くに旅行に行く時は各駅停車の夜行列車に乗って行った。

その当時の夜行列車に社内販売はなかった。飲み物も食べ物も列車に乗る前に買っておかなければならなかった。
みんながよくやっていたのは、夜行列車に乗る前に居酒屋等で夕食を食べながら酒を飲み、夜行列車のなかでは、到着するまでただ眠っている、という過ごし方だった。
僕も夕食にカレーを食べながらビールを飲んだりして、夜行列車のなかで眠っていた。

僕は酒を飲むと熟睡出来るのだが、何故かいつも
早く目が覚めてしまう。早朝の5時前には必ず目が覚めてしまう。
僕は起きるとリュックの中から水筒を取り出し水を飲み、その後ゆっくりと缶コーヒーをいつも飲んでいた。
そして、6時にはお腹が空いて来る。

当時、夜行列車は大きめの駅に停車すると、待ち合わせのために長く停車していることがよくあった。
朝6時を過ぎると、駅弁売りの人たちが駅弁とお茶を持って列車の外で駅弁いかがですか〜、と言って売り始めた。
僕は最初の頃は駅弁を買っていた。確かに美味しいのだが値段が高かった。そして、冷めて冷たいご飯だった。

ある時、停車した駅でサラリーマンの男の人たちが美味しそうに駅蕎麦を食べているのが見えた。
そうか、駅蕎麦か! と僕は思った。
駅蕎麦は駅弁よりも値段が安い、しかも美味しくて
温かい。そして、朝6時から営業している。

僕は夜行列車に乗る前に、時刻表で朝6時過ぎに停車時間が15分以上の駅を探した。
僕は計算上15分あれば大丈夫だと思っていた。
朝、17分停車する駅に着いた。僕は荷物のリュックを背負い、列車のドアが開くと同時に飛び降り、
駅蕎麦の店に全力疾走した。
メニューは決めていた、天ぷら蕎麦、もしニシン蕎麦があればニシン蕎麦。
駅蕎麦の店に到着した。所要時間3分弱、ニシン蕎麦がなかったので天ぷら蕎麦を注文した。
2分位で天ぷら蕎麦が出来上がった。
僕は時計を見て、ふーふー息を吹きかけながら、
天ぷら蕎麦を食べた。与えられた時間は3分。
温かい天ぷら蕎麦は美味しいと思った。時々コップの水を飲みながら急いで食べていった。
時計を見ると2分を少し回っていた。僕は天ぷら蕎麦のスープを飲み干し、ご馳走さまでした、と言って全力疾走で列車に戻った。少し時間に余裕があったので、ホームの自販機で缶コーヒーを買った。
戻ると、僕が座っていた席には誰も座っていなかった。僕はリュックを棚にのせて座り、ゆっくりと
缶コーヒーを飲み始めた。
そして、列車が動き始めた。

以来僕はひとり旅で夜行列車に乗ると、朝ごはんに
必ず駅蕎麦を食べた。
一口に駅蕎麦と言っても、それぞれ味も微妙に違うし、蕎麦の太さもコシの強さも違っていた。
また、天ぷらや身欠ニシンの味も違っていた。

僕は今でも時々、列車に乗らないのに駅に行き、
駅蕎麦を食べる。そして、駅蕎麦のある駅が少なくなって来たことを悲しく思う。
僕は、これからも駅蕎麦を食べ続けると思う。
そして、ひとり旅をしていた頃を思い出そうと思う
ひとり旅をしていた頃、僕が持っていたものを、
今の僕が失くしてしまったことに気づかさせてくれるからだ。
駅蕎麦、もしかしたら、僕の1番の思い出の味かもしれない。













#わたしの旅行記

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