小説:狐026「たこ、いか」(1026文字)
「で、結局のところたこですよね、たこわさびって。わさびではなくたこ。たこがメインでわさびがサブと。メイン→サブの順」
タロウさんがハイボールを飲みながら身振り手振りを交えて力説する。
すかさず、スミさんが、
「それがどうしたんだ? タコわさうめぇよな。おいらの大好物! それだけだな。
あ、思い出した。昔ラズマタズってバンドあったけど、あれの愛称はラズマタ、だったよな。ズだけ略すんだ。一文字だけ縮めるってところがミソでな。タコわさもそういうこった」
と言い放つ。
「まあたこわさ、とかラズマタ、は置いておいて……
じゃあ、チョコバナナ。あれは何ですか?」
今日はタロウさんの飲むペースが早い。テーブルに置かれた『これだけ英単語170000』なるボロボロの参考書に肘をついている。これだけ、と言うには単語数多くないか。
「祭りの屋台でよく見るやつだろ。チョコのかかったバナナ。要はバナナなんだよ。あれもおいらは好きなんだな。チョコかかってなくても旨いしな」
スミさんもいつもより顔が紅潮している。
「じゃあバナナメインですよね。それなら、たこわさびみたいに、バナナチョコにならないとおかしいですよね。メイン→サブなんですから」
「バナナチョコはなんかスワリが悪いなあ。語呂が良くねぇ。いかそーめんをそーめんいかって言うようなもんで、やっぱり気持ちが悪い」
「そーめんいか、何かイヤですね。あ、でもそーめんいかの場合はやっぱり、そーめんなんですよね。いかがサブとなると、麺にいかエキスか何かを練り込むんですかね」
「いかそーめんはいかそーめんだからうめぇんだ。そーめんいかはちょっと食欲がそそられねぇなあ」
「じゃあ、たこさんウインナーはどうです?
たこさんですか? ウインナーですか?」
「タロウさん、あれはたこさんだよ。何しろたこ“さん”だぞ。さん付けだぞ」
いやいや、さん付けかもしれないけど、あれはウインナーだよ、と心の中でツッコミを入れると、静観していたエロウさんが声を張る。
「あんた達、何言ってんの?
ずっと何言ってんの?
あとさぁ、ラズマタはアタシの兄貴が好きで、よく部屋のCDラジカセから聞こえてたね。
……タロウさんの肘の下、その単語集さあ、超有名学習系動画配信者の“使ってはいけない参考書トップ5”の動画で、第一位だったよ…… 17万っておかしいと思わないの?」
そう言い切ったあと、そのままその話題に合流するところがエロウさんらしくて、絶妙だった。
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