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小説:狐020「本当の怖さ」(708文字)

「シンジさんの話だけどさぁ」
 エロウさんがレッドアイを飲みつつ喋る。
「定食屋のエピソードのほうが怖かったな。アタシにとっては」
 シンジさんとしてはどうでもいい話だったのだろうが、確かに気になる。だいたいこんな話だった。

 *

 その定食屋に入るシンジさん。常連と思しき中年男性が一人、カウンターで肉野菜炒め定食を食べている。彼がシンジさんに語りかける。

中年男性「あんた、見慣れないねえ。東京から来た? あ、そう。あのね、新しい時代に入ってるからね」
シンジさん「新しい時代?」
中年男性「そう。大切なことだから教えとこうか? まずね、歴史の前、歴史が文字で書き留められる前ね。先史時代だっけ? それがの時代ね」
シンジさん「石ですか」
中年男性「んでさあ、文字を使い始めた時代ね。ついさっきまでそう。これが情報の時代。全部情報になっちゃう」
シンジさん「なるほど」
中年男性「そんで次ね、次の時代。石も情報も古くなった時代。これがヘチマの時代ね」

 *

「何か怖いよね、この話。そのおじさん、ふざけてるのか真面目なのかわかんないし。笑わせようとしてたとしてもセンスがすごいって」
 とエロウさんが説明にならない説明をする。
 確かに石、情報、このあたりは納得できる。しかしヘチマとは。訳が分からない。訳が分からないことからくる怖さがある。滑稽さを孕んだ少し病んだおかしみが醸しだされていると思う。“トンネルで、いないはずの女性の叫び声が聞こえる”というタイプとはまた違う怖さがある。

 そもそもヘチマとは何だろうか?
 ヘチマに何か象徴的な意味が隠されているのだろうか? 何かの暗喩・メタファーだろうか?

 腕を組んでいたマニさんがまた口を開く。

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