人を撒いてはいけない

スーパーで夫を撒いてしまった。
朝から体調が悪い、というより全く何をする気も起きず、トイレと水分補給以外ベッドにいて、気付けば寝ていた。
嫌な夢ばかり見た。リモートワークをしている夫はイライラしているように見え、わたしはわたしがここにいていいのか、よくわからないまま、体を横にすることしかできなかった。

夕方前になり、ようやく掃除機をかけ、クイックルワイパーをしてみたが、夕飯を作る気が起きず、なんなら、朝から何も食べていなかったが食欲もなかった。夫に伝えると「マックを食べに行こう」と言ってくれたので、朝から食べてないのにマックかと思ったが、食べられなかったら飲み物だけにするねと言った。

夫の退勤後、「この状況でおっしゃいますか？」ということを道中言われ、すっかり何を胃に入れる気もなくなり、夫に言うと「じゃあスーパーで買物だけして帰ろう」と言われた。

夫がヨーグルトを選んでいる隙にわたしは黙って店を出た。

夫を撒いたのだ。

すぐに電話がかかってきたが拒否をし、「ひとりにしてください」とラインを打った。
すずしくて秋の虫が鳴いていて、季節が変わったんだ、どこまでも歩けるんじゃないかと思ったが、雨予報だったんだよなと冷静になった。

しかたなく実家に行った。
2ヶ月ぶりに会った母はこんがり、ふっくらしていた。

何か食べるかと言われたけど何も欲しくなかった。
休職している話を、カウンセリングを受けている話を抵抗なく普通に聞いてくれたのが意外で心療内科を「頭のおかしい人がいくところ」と言っていた3年前が嘘のようだった。
「随分理解してくれてびっくりしてる」と伝えたら「〇〇君のおかげだよ」と夫のことをすごく優しくてできた人だと言っていた。
わたしが知らないところで連絡を取り合ったりしてくれているらしかった。
そのくだりで5年前に初孫に興奮した母に「あんたも早く産みなさいよ」と言われて嫌だったことを、今も覚えてるよ、と言ったら、なんとすっかり忘れられていた。だけれど「嫌な思いをさせたね、ごめんね」と言ってくれたので「思い出しては腹立たしかったけど、今日ようやく許してあげられるよ」と言えた。

母はこんなひとだったかしら。
頑なに食べ物を口にしないわたしに味海苔だけでもと勧めて、一枚食べたらもう一枚と食べさせてくるような…

夫から迎えに行くから落ちついたら連絡してねとラインが来た。どこまでも優しい人だ。

もうすぐ何か母に手土産を持って来てくれるに違いない。わたしは謝らなければならない。「撒いてごめん」と。