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古野まほろ【エッセイ】新刊『侵略少女 EXIL girls』に寄せて

10月19日、新刊『侵略少女 EXIL girls』が発売されました。刊行に合わせて寄稿いただいたエッセイを紹介します。


マーターズ、パッション、手毬唄、X

古野まほろ

 本作品の上梓をもって商業出版の第一線から身を引き、カボチャ作りの隠居となる。その経緯にあっては……主として新型コロナウイルス感染症の罹患後症状ゆえであるが……要旨を紙媒体版のあとがきに綴っている。適宜御参照されたい。

 さて本作品は、私の本格ミステリ連作〈戦う少女本格〉と、うち〈天国三部作〉の、いちおうの完結をなす長編である。

 といって私の主義からして、ひとつの長編はそれぞれ独立した公理系だ。例えば〈天国三部作〉の各々は、世界観を共有するも完全に独立しており、各々の謎解きに他の作品の知識を必要としない。各々一編の完結したミステリである以上、当然のことである(謎解きに無関係な情緒的箇所については、三部作を通読すればよりたのしめるという特性を有し得るが、各々が連作・姉妹編である以上、これも当然のことである)。

 本作品の特徴について述べる。本作品は極めてオーソドックスなロジック本格だ。だが主観的に述べれば、これはガラパゴス化の枢奥と最果てに到達した、総伏線主義に立脚するフーダニット本格である。ゆえに正統と異端、論と情、聖と淫等々が双立する。要は純粋本格にして奇書だ。更に主観的に述べれば、日本本格に対する私の遺言であり最後の答えである。〈天国三部作〉をもって私の本格は完成した。特に「侵略少女」は、本格作家としての私のエッセンスのすべてをTout-en-unにしたSchwanengesangである。これに、例えば本稿タイトルの各作品を、横溝のいう浪漫の衣として着せている。偏愛すべき浪漫の衣なくして古野本格はない。

 なお、〈天国三部作〉のうち「終末」は登場者カテゴリAとA’の物語、「征服」はAの物語、「侵略」はHとAとDの物語である。加えて、「終末」のAは特殊事情によりフルスペックではない(アルファベットの含意にも注目されたい)。

 それでは末尾になったが、忘れ難きMI氏とKU氏にあらんかぎりの感謝を捧げる。私を生んだ最初の読者と、私を支えた最後の読者である。さようなら。ありがとう。

《小説宝石 2022年11月号掲載》


▽『侵略少女 EXIL girls』あらすじ

孤島にある「桜瀬おうせ女子高校」は今夜、伝統ある「卒業夜祭やさい」を迎えていた。だが校長と政府以外、この儀式の壮絶な真実を知らない。卒業生のうち選ばれた7人だけが今夜、世界を救う「侵略者」となる事実を。総伏線主義の正統派ロジック本格、至極しごくの最終章。

▽プロフィール

古野まほろ ふるの・まほろ
東京大学法学部卒業。2007年、『天帝のはしたなき果実』で第35回メフィスト賞を受賞し、デビュー。近著は『警察官僚』『征服少女 AXIS girls』。


▽『小説宝石』新刊エッセイとは


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