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味方みたいな

「海の見えるホテルの朝食」というZINEをつくりました。STORESにて通販も開始いたしました。(DMなどからも受付けております。)一冊一冊、みなさんのもとへお届けできることを嬉しく思っています。この本について、すこし説明がてら、ここに記します。

このZINEには、9つのショートストーリーと、挿絵がかいてあります。9つのストーリーのうち、6話はかつて、少数ですがフリーペーパーとして発行したお話です。でも、そのほとんどに加筆をし、タイトルからがらりと書きかえました。もういちど生み出す気持ちで。(一度フリーペーパーを読んでくださった方も、楽しんでいただけるかと思います。)

表紙には、ホテルのバイキング形式の朝食会場なんかにある、ポーションタイプのバターをかきました。とある彼女が、青色のパッケージ、封を開けて、バターナイフでなめらかなクリーム色のそこを、すくいとって、焼きたてのパンのやわらかいところへすべらせる。海が見えている。彼女の向かい側には、彼が座っている。ネイビーブルーのトレーナーを着て。そういう光景をどこかで目にしたとしても、ふたりが交わす言葉たちはざわめきにまぎれてしまって、わたしたちの耳には届かないので。どうかこの本を読むときには、彼や彼女たちの今がぴったりと、あなたに寄り添ってくれるようなひとときが、訪れたらいいなと思いつくった本です。

幼い頃から不思議だったこと。きっと誰しも成長途中で、感じたことがあると思うのですが、「わたしの心の中はわたししか知らない」「みんなの心の中は知ることができない」「わたしの見ている世界はわたしの目線でしかない」「みんなが見ている世界は見ることができない」「今わたしには朝が来たけど、どこかの国では夜で……」「今わたしは笑っているけど、だれかは痛みに苦しんでいる?」「それって、ほんとうに?」「これってつまり、わたしって独りってこと?」というようなことを、フシギだフシギだと思い続け、わたしはお話を書くということに至ったのかもしれません。

ストーリーにはそれぞれ、恋をしている人と、ごはんを食べているシーンが、よく出てきます。それは「恋愛」や「たべもの」というフィルターを通すことで、その奥にある「生と死」だとか「ここに存在していること」だとか「欲望」だとかを、直接的でない表現で、ふわっと置いておける気がしているからです。

考えても簡単に答えを出すことのできない、だけど全ての生き物やものごとに張り付いて離れることのない、圧倒的な事実があります。この世に生まれたということとか、生命の神秘みたいなこと。宇宙の始まりみたいなこと。あるいは、飲み込まれそうになる大きな波みたいなもの。気候変動や、紛争や飢餓、そういうもの。なにが望ましいことか頭では分かっているのだけど、だけど結局のところ、朝起きたわたしの枕元には、スヌーズ鳴り止まぬスマホがあって「お弁当つくらないと。冷凍したごはん、解凍して……」と思いながら、もう5分、眠ってしまったりする。そうやって眠い目をこすっている人たちの、いつもの生活、そういう時間をならべて、この本をつくりました。みんなやさしくて正しい(そうありたいと思っているということ)。精一杯なひとたちはみんなきっと。

今、おなかが空いていてもいなくても、恋をしていてもそうでなくても。この本に書いた言葉のうちのどれかひとつが(例えばバター、ビートルズのCD、イチゴのにおいのするリップ)、みなさんの日常の中で立ち現れて、あなたの味方になってくれたらいいなと思っています。ぜひ、どこかで手にとって頂けたら嬉しいです。

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