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ゴールデンウィークには白い本を

午前中、人は少なくて静かだった。といっても、図書館はいつも静かだ。平日でも休日でも、午前でも午後でも、みんな本ばかり見てる。前回のエッセイで4月17日に本を返しに行くと書いたけれど、インターネットの図書システムから一週間貸し出し延長ができるから、それを操作して24日に返しに行った。

“本屋さんも大好きだけれど、図書館は「富」だから好きだ。”とも書いたけど、図書館の静けさも好きなところのひとつ。あと、照明が白すぎないところも。ちょっとしめったかびくさいにおいがするところも。
本棚の間を縫うようにくねくねと歩きながら、よくぞ、これだけたくさんの本が生まれてきたねえ、と思う。人間の英知に身震いするほど感激しながらも、死ぬまでに全ての本が読めないことに、しょげた気持ちにもなる。すると少々パニックになって、「いそげえー」とばかすか本を借りてしまう。こんなに本ばかり借りてどうするんだろうと思うけどどうしようもない。本を抱えていると落ち着く。枕を抱えているときみたいに。

ここ数ヶ月は、実用書をよく読んだ。経済について知りたいことや、仕事に関する調べ物など、必要な情報を得るために読む本を借りた。でも今回は、小説とエッセイばかりを選んだ。検索システムも使わずに、ただ棚を眺め心が惹かれるままに、これまたばかすかバスケットに放り込んで、カウンターへ向かった。

白い本ばかりを借りていた。一冊だけ黄色だけど、他は全部白っぽい表紙だった。わたしは白い本が好きみたい。
時には、黒い本も色々と読んできた。これはわたしの勝手な解釈として聞いてもらいたいのだけれど、黒い本に比べて白い本は、例えばそれが小説だったら、誰かがとつぜん殺される、みたいなことがない。現場検証とかパトカーとか、手に汗を握って走る高速道路とか、濁点がたくさんついている名前のカクテルとか、時計のカチ、カチ、とか、叫びながら夜の街に消えていく……とか、そういうのが出てこない。(たまに、ハイスクールの男の子がクスリをやることはある。でも彼は恋をしているし、前髪が長くてカールしていて、物寂しげな顔をしてる。)

白い本は、作家が暮らしている一軒家やら、とりこんだハンカチのしわを手で伸ばすシーン、「あたし、天丼が好きなんです」と言うお嬢さんやら、珈琲やらエクレアやらが出てくる。白い本はとりとめがなく、どっちつかずで、でもそんなだから寛容で、やさしく、あたたかい。
わたしは、時々、そういう言葉たちにうんざりする。そんなこと言ったってなんにもならないじゃないか、ほんとうの世界を見せておくれよ、ってな気持ち。
でも、わたしは白い本をばかすか借りてきた。GWは、白い本をたくさん読むのだ。どうしても離れられない。うんざりしたところで、心のどこかで信じ切っている。ほんとうの世界ってなんだろう、どこにあるのかな。

図書館のカウンターでわたしの前に並んでいた小学生低学年の男の子も、タワーのように積み上がった数の本を借りていた。それはシリーズものの児童書で、表紙は白でもなく黒でもなくてとてもカラフルだった。学校がお休みの間、もりもりと読んで欲しい。なんだかうれしかった。男の子のうなじはもう、ほんのり日焼けしていた。初夏がはじまる。

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