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エッセイ

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どうでもいいような、だけどあるとちょっとウレシい毎日のことです。
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#夏の思い出

なつやすみの退屈

なつやすみの退屈

読書感想文を書くことが、けっこう得意だった。けれど、決して、好きではなかった。

自由研究、工作、絵日記、と並んで、読書感想文は夏休みの宿題の中でも「大物」のひとつである。この大物にちっとも手をつけていないと、お盆を過ぎたころ、なんとなく「いやな感じ」が胸に広がってくる。ラジオ体操の出席カードに、それなりにスタンプが溜まってきたことをチラリと確認して、ようやく、原稿用紙に向かっていた。

わたしは

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シスコさんのこと

シスコさんのこと

シスコさんの絵を見に行ってきた。
つまり、画家・塔本シスコの展覧会を観に行ったということなのだけれど、例えば「ゴッホ展に行ってきたんだけど」と言う時とはちょっと違う声色で言いたい。美術館に行った、というより、もっとずっと気取らない感じ。名前に「さん」をちゃんとつけて、「シスコさん」と呼びたい感じ。「作品」よりも、「絵」と表したい感じ。

91歳で亡くなるまで絵筆を握り続けたシスコさんが、本格的にキ

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夏の家

夏の家

近所にあるパン屋さんの袋をぶら下げて、友人の家へ向かった。友人は最近新居に引っ越したので、わたしは初めて通りがかる交差点の名前を地図と見比べながら、迷わないように迷わないように歩いた。

アパートが遠くから見えてきたとき、「あれだー」と思った。そのレトロな雰囲気のある外観が友人にぴったりだった。
だれかのウチを訪ねるというのはとてもどきどきする。これは小学生のころ、呼び鈴を鳴らして「◯◯ちゃんいま

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