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【詩】はじまりの歌 - 第三歌「こうして、オメガの刻が始まった」

「新しい文明」について歌う「はじまりの歌」シリーズ、3つ目です。

はじまりの歌 - 第三歌

こうして、オメガのときが始まった。

黒いシロナガスクジラがあらわれてのたまった。

「すべては閉じてふさがれた
もう、おしまいだ
希望はない──」

オメガは崩壊ほうかいの力、200年以上続いた文明が崩れようとしていた。社会には不安が染みのように広がった。誰もが「なにかがおかしい」と感じ始め、また、大切なものがなにかに気づきかけたものの、それを自分で否定してしまっていた。「いや、それではない」と。

これが「オメガの刻」だった。

しかし、オメガの刻が始まるか、その前からこの世界になじまない人たちがいた。彼ら、彼女らは哲学や芸術、伝統や技芸に心をかれ、単独で冒険をしていた。

この人たちが今、舟に乗り込んでいる人たちである。

たとえば、「星の祈り」はちた海底神殿かいていしんでんで長い間、祈りをささげていた。

また、「夜の祈り」は光のないまちで祈り続けた人だ。

風来坊ふうらいぼう」は、よくお酒を飲みながら人の悩みに耳を傾けていた。彼のまわりにはいつも人が集まった。

そしてここに「探索者たんさくしゃ」がいて、この人はちょうど土地を測量そくりょうし、地図を作るように、知識や知恵を集めていた。

またさらに「大きな気持ち」という人がいて、この人はその深い心で、まちの人たちを受け入れていた。行き場をもたず、ひねくれたところのない人にとって「大きな気持ち」の家こそがり所だったのだ。

このようにして長いオメガの刻の間も、私たちは生きびて来た。みんな、知らず知らずに力を合わせていた。そう、絶望に片足を踏み込める人こそ、もう片方の足で希望に踏み出せる人だった。

2024年の6月、オメガの刻は唐突とうとつに終わりを告げた。崩壊は進んでいるが、新しい詩歌しいかも生まれてきた。それは新しい文明のきざしだった。


* 「オメガのとき」とは古い文明がこわれ、「新しい文明」が始まる前の試練しれんの時でした。

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