新天地で人生を築く能力

先日、地元から姉が来ました。

彼女が東京を訪れるのは、高2の修学旅行以来。実に8年ぶりのことでした。

ほぼ毎日LINEや電話をする仲ですが、対面で会うのは夏の帰省で会って以来。

一人で海外にも行く私とは違い、姉は一生地元で生きていたいし、遠出の旅行も面倒で嫌がる人。今回も、チケットやホテルの手配は私がすることに。

何度行ってもいまだに迷子になる東京駅での待ち合わせは、想定通り大変でした。

姉の服装も、歩くスピードも、話す言葉も、ちょっとした身のこなしも、帰宅ラッシュの東京駅では浮いていました。
数ヶ月前までの自分を見ているようで、とても恥ずかしくなってしまい、忘れていたコンプレックスを刺激されてしまいました。

どこに行っても人が多いこと、満員電車、何につけても多すぎる選択肢、忙しなさ・・・。東京のあれこれは、やはり姉にはストレスだったようです。
私は地元に帰るたびに「絶対にここには戻らない」と誓うのですが、同じように姉は「自分はやっぱり一生地元で生きていく」と改めて心に誓っていました。

元々顔も性格も似てない二人だったけれど、ここまで違ったかしら。

「こんなところでよく生活できるよね・・・。」
帰りも落ち着かない様子で改札を抜ける姉の背中を見ながら、これからも私たちは全く別の土地で、全く別の人生を、別な風に生きていくんだろうと感じました。

私の知る非都民の多くは「東京は住むところじゃない」とよく言います。それを理由に上京の夢を笑われるのが嫌だったし、「東京に住めない人の嫉妬かな」と思ったときもあります。
でも違うんですよね。どこの土地にも適性がある。
地元愛の強い人は地元で人生を終えたっていいし、私には東京が合っていたし東京に住むべきだった。それだけのこと。
なんだかんだ人は収まるところに収まっているんだろうなと感じました。

ここ最近、ずっと地元にいる人と関わることが多かったことで、上京してからの自分をふとふりかえります。

一人で家具を組み立て、生活用品を買い集め、諸々の手続きを済ませ、電車の乗り方を覚えて、何とか生活環境を整えた最初の1ヶ月。そして働いて、自分で家計管理をしながら生活を回し、新しい人間関係を築く。
当時は無我夢中だったし、過ぎてみれば「そんなこともあったなぁ」といった具合ですが、やっぱりあれ大変だったよなぁ。

初めての一人暮らしを始めて半年と少し経ちましたが、1秒もホームシックになったことはないし、2年の賃貸契約が終わったらまた別の区に住もうとさえ思っています。

様々な街でカルチャーショックを受けながら、色々なことを感じて、その街に染まって、そこで実現できる限り最高に文化的で、精神的に豊かな生活を築くという試みが、もはや趣味です。

これって当たり前じゃないんだな、ある種才能みたいなものなんだなと思いました。
新しい環境への適応能力が高いとも言えるのでしょう。幸運なことに、この場所が自分に合っていたのもあるでしょう。
方言も、電車の乗り方も、街のつくりも、文化も、何もかも違う場所で住むだけでなく、心の底から楽しんでいて、街の魅力を細胞で吸収する勢いで生きています。
地元は嫌いだけど、田舎でも田舎なりに楽しんでいたし、その土地でできる方法で目一杯楽しめる才能があるのかもしれないです。
そんな自分を少しだけほめてあげようと思います。

そんなの当たり前では？と思ってしまいそうですが、それは完全に生存者バイアスで、東京や一人暮らしそのものが合わず帰郷する人だって少なくありません。姉のように0から築き上げることが、考えるだけでもストレスな人もいます。
それが悪いかと言ったらそんなわけはなくて、帰れる場所があって、そこを「帰れる場所」として維持していることも、同じようにすごいと思うのです。家族や友人と離れても、良好な関係を維持し続ける必要がありますからね。
一つのコミュニティ内で生き続けるのも、これまた良好な関係を維持する必要がありますし、田舎なら尚更小さな政治をし続けなければいけません。
それはそれで大変です。

そこに生活拠点を構えれば、それだけでそこで“人生を築いている”と言えるのかというと、そうではないと思います。
私には言語化が難しいのですが、「ここは私の居場所だ」と思えるように、自分で環境を整えて、そこで思い出を作って、その場所に対して精神的な結びつきを感じられるまでになって初めて、「そこに人生が築かれている」と私は思うのです。
そんなことはできて当然に感じるかもしれませんが、どうでしょう。結構精神的・肉体的体力が必要ではありませんか？
私もですが、そこにあまりストレスや疲労感を感じていない人は、本当に才能だし、実はこっそり柔軟な人なのではないでしょうか。お水みたいに。

東京に限らず、地縁のない場所で生活している全ての人。当たり前じゃないです。すごいです。

ぜひ、新しい街で生きてきた数ヶ月、数年の自分をふりかえって、労ってあげてくださいね。