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日本語でまったく手加減せずに話していると、ときどき夫がフリーズする

私の夫はアメリカ人である。

夫婦間の会話はほとんど英語なのだが、私からは日本語で話すこともよくある。ぱっと頭に思いついたことを瞬時に言いたいときや、気の抜けた受け答えをしているときが多い。話の最初の一文とか、会話のキャッチボールをしているときの短文である。夫は、かつて日本語を勉強し、日本に住んでいた時期もあるので、日常会話でこの程度の長さなら、ほぼ聞き返すことなく理解してくれる。

夫の日本語への信頼が厚いがゆえに、話すスピードをゆっくりにしたりする気遣いもしなければ、いまや標準語ではなく大阪弁を平気で使っている。さすがに大阪弁のイロハは、結婚してから私が教えた。「アカン」(だめ)、「~やねん」(~だよ)、「ちゃう」(ちがう)などの頻出語彙は、いまでは自然に頭の中で変換できているようである。夫の日本語力(特にリスニング)は、かなり上級だと思う。

そんな夫でも、こちらがまったく手加減せずに話していると、ときどきフリーズしてしまうことがある。日本人としては、なんら難しいことを言っているつもりはなくても、外国人には難しく聞こえることがある。先日もそんなことがあって、二人で笑ったところだったのだけど、これを機に、我が家オリジナルの、日本語難解リスニング例題をまとめてみたい。

1 「キットカット買っといたよ」

このさりげない私の一言に、夫は真顔で、「カットカット・・・?」と口の中で反芻しながらフリーズしてしまった。

この文の難しさは、①キットカットという外来語の発音(外国人には別物に聞こえる)を理解すること、②「ット」の音が3連発するなか、そのリズムに気を取られることなく文意を掴むことにあると思う。

2 「一回行かなあかんなあ」

我が家の近くに見つけたレストランの話をしていたときのこと。夫は、わからないものはちゃんとわからないという質なので、私のこの一言に、ちゃんと会話を止めて、「ナニ?」と言った。

「一回行ってみようよ」と言えば、すっと理解できたのだろうけれど、大阪弁になっていることに加え、二重否定の文型になっているのが難しかったらしい。わかる。外国語の二重否定は情報処理に時間がかかる。それに、同じような音とリズムが繰り返されるので、意味がわからないとなにかの呪文のように聞こえるんだと思う。

3 「食べたかったら食べ、食べたくなかったら食べんでいい」

これは、私が息子に厳しい口調で言い放った言葉だった。息子は野菜嫌いがひどく、夕飯に出した野菜を食べたくないと駄々をこねていた。あまりに文句を言い連ねるので、食べるか食べないかは自分で決めろという意味で言ったのだ。

私にビシッと言われて機嫌を損ねる息子に、夫はこれまた真顔で、「いまママが言ったことを理解できたの?」と尋ねた。息子は頷きながら、「ママはこう言ったんだよ」と英語に訳して夫に聞かせていた。

ゆっくり言えばわかったのだろうけれど、私もイライラしながら言ったので、早口言葉みたいに聞こえたのだと思う。たぶん夫の耳には、こんな感じに聞こえていた。

タベタカッタラタベ、タベタクナカッタラタベンデイイ

これは難解。

毎日、こんなわかりにくい日本語を浴びせているスパルタ妻な私だけど、これでいいのだ。夫だって容赦なく英語で話しているわけだから、あおいこ。

【追記】
この記事を書いた数日後に、もうひとつ恰好の例題を見つけた。

4 「なに塗るの?」

ある日の朝、娘の朝食のために準備した食パンに、バターを塗るのか、ジャムを塗るのかということを聞きたくて、娘にかけた言葉だった。夫は、

「いま『なにぬねの』って言った?」

と不思議そうな顔をしていた。

ほう、これは外国人には「なにぬねの」と聞こえるのか。言われてみれば、確かにほとんど「なにぬねの」である。

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しょうもないんだけど、じわっとくる面白さを感じているのは、私だけでしょうか(笑)。



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