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日系アメリカ人の子どもとの会話に心が動いた話

先日、学校のイベントのボランティアとして息子のクラスに行ったとき、息子のクラスメイトのマイケルから、こんなことを聞かれた。

「日系人キャンプにいたことある?」

なんの脈絡もない唐突な質問だったので、その意味が瞬時には理解できなかった。聞き間違えたかとも思った。

わたしが答えないので、マイケルは同じ質問をもう一度繰り返した。マイケルは、第二次世界大戦中のアメリカで、日系アメリカ人と日本人移民が強制収容された日系人キャンプに、わたしがいたことがあるかを聞いていた。

おいおい、わたしを幾つやと思ってるねん。

というまともなツッコミも浮かんだけれど、小学1年生から見れば、わたしの過去は十分すぎるほど遠い過去に見えるのだろう。そう思って、ツッコむのはやめた。

「いたことはないよ。そのときわたしはまだ生まれていなかったから」

とやっと答えると、マイケルはすぐにこう言った。

「僕のおじいちゃんはそこにいたんだよ」

わたしは、ああ、そうかと思った。君はそのことが言いたかったんだね。

マイケルは、日系アメリカ人である。祖父が日本人、母親がハーフで、彼はクォーター。わたしが日本から来たことも知っている。

マイケルが話してくれるおじいちゃんの苦難の歴史を、わたしはふむふむと頷きながら聞いた。

「わたしは日本で生まれ育ったけれど、わたしのおばあちゃんはアメリカで生まれたんだよ」

今度はわたしの家族の歴史を話した。わたしの祖母はカリフォルニアで生まれた。

「じゃあ、キャンプにいたの?」

マイケルはどうしてもキャンプが気になるらしい。

「ううん、生まれてすぐ日本に帰ったから、戦争のときはもうアメリカにいなかったの」

マイケルは、へえそうなんだと聞いていた。おじいちゃんと同じかと思ったら違って、ちょっと残念そうな顔をした。

「この前、おじいちゃんがいたコロラドのキャンプの跡地に行ってきたんだ」

ほう。日系人としての家族の歴史が、マイケルにも語り継がれたらしい。彼なりにそれを受け止めて、同じ日本の血を受けたわたしにその話を伝えている。

「それから、日系人キャンプに入れられた女の子の話も本で読んだよ。その子はカリフォルニアにいたんだけど、そのあとどこどこに連れて行かれて…」

彼は、本で読んだ話を細かに再現して教えてくれた。

「よく知ってるね、お父さんかお母さんが読んでくれたの?」

と聞くと、自分で読んだという。そういえば、息子から、マイケルは自由時間によく本を読んでいると聞いたことがある。

関心を持ったことについて、もっと知りたいと興味を持って、自分からそれを本の中に探しにいっているマイケル。1年生でここまでできたら立派なものだ。わたしは心底感心していた。しかも、戦時中の日系人キャンプなんて、子どもが飛びつくようなトピックではない。自分につながる家族の歴史の重みを、彼なりに理解しているらしいところが尊いと思った。

わたしは、マイケルの目をしっかりと見つめて言った。

「悲しい歴史だよね。でもそのことについて自分で本を読んでみたのはとてもいいことね。家族として、日本人の子孫として、その歴史を知っておくのはとても大事なことなんだよ」

マイケルは黒い目を真っ直ぐにわたしに向けていた。どこまで響いたかはわからないけれど、目を逸らさずに、黙ってわたしの言葉を聞いていた。

マイケルとうちの息子はよく一緒に遊ぶ仲で、わたしもマイケルとは何度も顔を合わせている。

でも、このときはじめて、この子と意味のある会話をしたと思った。「息子の友達」と「〇〇くんのママ」という間接的な関係ではなく、マイケルとわたしという直接的な関係になった気がした。

そして、同じ日本の血を引きながら、全然違う歴史の中で生きてきた家族の末裔として生まれたこの子と、ちょっとだけだけど、心を通わせて、日系人の歴史の話ができたことが、なんだか嬉しかったんだ。

いつか、我が子にも語り聞かせようと、わたしは一人静かに考えていた。

【毎日投稿76日目】

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