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一人で生きていけたらいいのに

大学に入って2回目の期末試験を迎え、気がついたら4年間ある大学生活の半分を終えようとしていた。大学院に進学する予定は今のところないし、単位も順調に取得している。このまま大きなアクシデントが起こらない限りはきっと私はあと2年と数ヶ月で学生生活を終えることになるだろう。

大学生といえば、というステレオタイプな生活を送っている自覚はある。大学で授業を受け、希望のゼミに入り、バイトをし、サークルに二つ所属し、友人とご飯を食べたり飲み会をしたりして、恋人もできた。難点といえばちょっと忙しすぎることくらいだろうか。

ただ、一年生の時にちょっとした挫折を経験した。今振り返れば大したことないように思えるし、きっと側から見てもそんなの挫折に入らないよ、と言われてしまうかもしれない。でも、当時の私にとっては、それこそ自分の人生を左右するかのような重大な失敗に思われた。
端的に何をしたのかというと、所属していたサークルを辞めてしまった。当時の私は恋人もいなかったし、バイトも時々暇な時にシフトに入る、という程度だった。授業には出ていたけれど一年生で必修ばかりだったので、興味のある分野の授業を取ることもあまりできなかった。要するに、私の中での大学生活の全てはサークルにあると言っても過言ではなかったのだ。

私の入っていたサークルはダンス系のサークルで、週二回の正規練習に加えて度々週末に本番があったり、追加練習があったりした。さらにいつでも自主練ができる環境が整えられていたため、強制じゃないながらも週何回か自主練をするべき、みたいな空気感があった。練習は毎回出席を取り、一定回数以上休むと本番に出れない、と言ったルールも決められていた。大学一年生の私は、サークルに入りながら単位を回収することでいっぱいいっぱいになってしまい、他のことを頑張る余裕なんてなかったのだ。そうすると、サークルが全てになってしまうから、どうにかサークル内カーストの上位にいたいともがき、居場所を見つけるのに必死だった。

でも、うまくいかなかった。2年生に上がるタイミングでほぼ全員が何かしらの係につくのだが、私は何もやらせてもらえなかった。誰よりも練習したのに、希望のステージに乗ることができなかった。ああ、私は必要とされていない。そう思った。私にはサークルしかなかったのに、そのサークルにお前はいらない、と言われてしまった気分になった。

私はそのサークルを辞めた。大学でできた友人の9割はそのサークルにいたと言っても過言ではない。途中でやめてしまう人も滅多にいないサークルだったし、辞めることを代表に伝えた時は2ヶ月に渡って引き止められた。それでも、大学生活の全てを失っても、私が嫌われているかもしれない、必要とされていないコミュニティの中で残りの大学生活を浪費してしまうことは耐え難かった。

今となっては「やめてよかった」と心から言うことができる。幸いにも一部の人とは交友関係が続いているし、今のサークルは強迫観念にかられることもないし、好きなことを好きにやらせてもらえている。でも、私にとってこの一連の出来事は間違いなくショックなことで、ちっちゃいガラスの破片を飲み込んでしまったような気分の悪さがあった。今でもちょっとした拍子に、ガラスの破片が胃をジクジクと傷つけるような、そんな気分になる。

ガラスの破片が私を傷つけるとき、「一人で生きていけたらいいのに」と思う。でも、そのたびに私は絶対に一人では生きていけない、とも思う。

ガラスの破片は、私の「一人になることへの不安」だ。きっと私は、人から必要ないと思われることを一番おそれている。確固たる自信がないから、人に承認してほしい。もし私に何かずば抜けた能力があって、何者かになることができて、それを自分で認めることができたら、きっとこんなに不安にはならないのだろう。でもそれは妄想に過ぎなくて、無力でちっぽけな自分を常に抱えて、向き合いながら生きていかなきゃいけない。しんどいから、周囲に必要とされている、という事実が欲しい。

人望がある人は少なからず魅力的だし、思い返せば私はずっとそんな人に憧れてきた。そして、そんな人にはなれなかった。いつも魅力的な人を友人にして、自分も魅力的な人間だと思い込みたかった。友人が自分を対等に見てくれていることを望みながら、けれど、自分が一番相手と対等にいようとしていなかった。

だからこそ、一人で生きていけたらいいのに、と思う。人々がみんな一人で生きていくのが当たり前の社会で、人望が人の魅力をはかるパラメーターじゃなくて、孤独への不安なんてものはなくて、社会に適合できなくてもそれが当然、みたいな世界だったら、私はもっと幸せだったんじゃないか。

でも、人は一人じゃ生きていけない。少なくとも、真っ当に社会に受け入れられながら生きていきたいなら、人との関わりを避けては通れない。だから、私はきっとこれからももがいていくんだろう。一人になる不安を抱えて、でもそれを人前に出さないようにして、時々たまったものをnoteに吐き出して、ちっぽけな自分を受け入れられるよう、少しでもマシな人間になれるよう願いながら。


#エッセイ #コラム #日記 #大学生活 #ひとり

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