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【読書】『鎌倉うずまき案内所』青山美智子【自分を見失いそうなときに】


必死に目の前の作業をこなしたり、上司や部下に気を遣ったり、大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをしたり。


少し無理をして友達に合わせたり、周りにすすめられるがままに進学先を選んだり、やりたいことがわからなくなったり。


「私、何をしているんだっけ、何がしたいんだっけ」と自分を見失いそうなときにおすすめの一冊を紹介します。


『鎌倉うずまき案内所』(青山美智子 著)です。


「はぐれましたか?」


迷ったり悩んだりしている人が、気付くと辿り着いている「鎌倉うずまき案内所」。そこにはおじいさんが二人いて、「はぐれましたか?」と声をかけてきます。おじいさんたちに話をすると、不思議なことが起きて…。


このお話は、2019年から6年ごとに平成時代をさかのぼる形で進んでいきます。


2019年の主人公は、希望していた部署ではないところに配属された、出版社勤務の早坂。


2013年の主人公は、ユーチューバーになりたいと言い出した高校生の息子に戸惑う母親。


2007年の主人公は、プロポーズされたが結婚するべきか迷っている梢。


2001年の主人公は、はずされないように同じグループの子に合わせるあまり、本当の友人を失いそうになるいちか。


1995年の主人公は、大学時代にはカリスマと呼ばれたが、その後上手くいかないまま年齢を重ねた劇団の脚本家、茂吉。


1989年の主人公は、勇気が足りずに好きな人と一緒になれず、一人で生きてきた古書店の店主、文太。


どの人が抱えるものも、どこか身に覚えのある息苦しさで、主人公に共感しながら読み進めることができます。


一瞬一瞬を生きる


本書を読み、たくさんの大切にしたい言葉に出会いましたが、色々と吹っ切れた気になれたのは、最後の1989年のお話で文太さんがかけられる、「何かを残すためじゃなくて、この一瞬一瞬を生きるために、私たちは生まれてきたんだよ」という言葉です。


今のままで良いのかなと将来に漠然とした不安を抱く日もありますが、まずは一つずつ目の前のことを積み重ねていきたいと思えます。


この本は連作短編集で、立ち止まりそうになっていた人が後で飛躍をとげていたり、ある人と他の人が思わぬ形で繋がったり、一歩一歩進んでいけば道が開けることを教えてくれるのです。


また、2007年のお話でジェシカが梢に言う、「理解するのと同じになるのは違うことよ。別々のものを持ち寄るからいいんじゃない」という一言も心に残っています。


家族、恋人、友人、同僚。近い関係の人との違いに悩んだとき、思い出したい言葉です。私とあの人が違うからこそ、良いチームになれるんですよね。自分が得意なことと相手が苦手なことを比べて「どうしてあの人は」と思うのも、自分が苦手なことと相手が得意なことを比べて「自分なんて」と自信を無くすのも、やめたいと感じます。



そっと寄り添ってくれる一冊、自分を見失いそうなとき、疲れたときにぜひ手に取ってみてください。


お読みいただき、ありがとうございました。


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