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【日向坂文庫#4】『黒猫の小夜曲』知念実希人(表紙 高本彩花)

おしゃれな題名の本作品、改めて思い返すと第1章が桜の季節のお話だ。春や桜に関連するお話を読みたいなと思っている方、ぜひ。

次第に浮かび上がる事件

地縛霊の未練解決のため、黒猫の姿で地上に降りたクロ。記憶を失ってしまったという地縛霊と出会い、事故で昏睡状態にある麻矢という女性の肉体に、一時的にその霊を入れることになる。クロは、麻矢の姿となった霊とともに活動していく。

初めは妻に対する未練から成仏できない夫の地縛霊、次は未解決の事件に対する未練から成仏できない元刑事の地縛霊について、未練から解放してあげるクロ。

その活動は順調に見えたが、次第に背後にある事件が浮かび上がってくる。サウス製薬という製薬会社の関係者が、複数亡くなっているのだ。

人間びいきになっていくクロ

クロは初め、人間に対し、よくわからない生き物だと不信感を抱いている。合理的ではなく感情に支配されるところ、自分勝手なところ、かと思えば自分より他人を大切にするところ。

しかし、麻矢や地縛霊たちとの交流を通じて、クロは次第に人間の温かさに気付いていく。人間びいきになってくるのだ。

クロと麻矢の優しさ、事件関係者たちの懸命さが心を打つ。死神であるクロから、人って良いなと教えられる、そんな作品だ。

精一杯生きるということ

クロよりも前から地上で活動する、犬の姿をした死神レオの「人間はわずかな時間しか与えられていない。だからこそ必死にもがき、合理性よりも自らの感情を優先して行動する」という言葉、クロが元刑事にかけた自分の代で花が咲かなかったとしても、種を植えることが大切」という言葉。

これらの言葉が心に残っている。毎日を丁寧に、精一杯過ごしていきたいと思う。

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