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【読書】『少女は卒業しない』朝井リョウ【前向きな寂しさ】


朝井リョウさんの作品の中で、社会人を描いたものを続けて読んできたので、今回は高校生がテーマのものを選んでみました。


『少女は卒業しない』。合併により取り壊されることが決まった高校の卒業式の日。好きだった先生やダンスの道に進む幼なじみと別れ、自らの選んだ道に一歩踏み出す少女たちが描かれます。


大人になって青春ものを読むこと


青春ものは、胸がぎゅっとなるかなと思って読むのをためらってしまいます。自分の学生生活はそんなにきらきらしていなかったなと感じたり、悩んでいたことを思い出したり、もしくはもう返ってこない楽しかった時間がよみがえって苦しくなったりするかな、と心配してしまうのです。社会人の辛さが描かれているようなお話の方が、今は向いているのかな、と。


しかし、いざ読んでみると、学生生活のかけがえのなさに心を掴まれ、高校生って良いなと素直に感じました。


前向きな寂しさを感じている少女たち


好きだった図書室の先生と。ダンスの道に進む、自分にないものを持った幼なじみと。恋をしていた卒業する先輩と。地元に残る同じ部活の彼と。歌声が素敵なバンドのヴォーカルの男子生徒と。物事をまっすぐに捉える美術部の大切な友達と。作ってあげたご飯を何でも食べてくれた、大好きだった剣道部の彼と。


女子高生たちはかけがえのない誰かとの別れを経験して、新しい道に踏み出していくので、そこにはもちろん寂しさがありますが、一方で、将来への希望もかすかに見えるのです。「前向きな寂しさ」というものを彼女たちは抱えています。


みんなの進む道が最高のものになりますように


私は、ダンスの道に進む幼なじみの尚輝とお別れする孝子のお話、『屋上は青』が一番好きでした。


みんなと違う世界へ飛び出す怖さも、隣にいた人が手の届かないところへ行ってしまう不安も、自分にないものを持つ相手に対する憧れも、わかる気がします。


「何が幸せで、誰が正しいかなんてわからない」と孝子は言いますが、本当にそうだなと思います。道を選ぶ場面で、毎回私も感じてきたことです。


高校や大学は、その後の選択肢が広がるようにと選んできましたが、就職のときには、一つを選ぶということが怖くてたまりませんでした。しかし、今では、選んだ道を正解にしていけば良いのだと考えています。尚輝のダンサーへの道も、孝子の英語教師への道も、輝かしいものになりますように



高校生のときのみずみずしい気持ちを思い出したい方や一歩踏み出すに当たって背中を押してほしい方におすすめの一冊です。


お読みいただき、ありがとうございました。


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