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【読書】『スペードの3』朝井リョウ【自分の嫌な部分と向き合う】


先日、『正欲』を読んでから、とても気になる作家となった朝井リョウさん。今回は、『スペードの3』を読みました。


皆さんは、トランプのカード、「スペードの3」と聞いて、何を思い浮かべますか。ゲーム大富豪において、場にジョーカーが単独で出されれば、その後に出せる唯一のカード。革命が起これば、一気に強くなるカード。


ファンクラブの幹部、美知代


化粧品会社の関連会社で商品の発送等を担当している美知代は、舞台女優、香北つかさのファンクラブで幹部を務めています。「ファミリア」と呼ばれるファンを取りまとめ、貢献度によって出待ちの列の場所を決めたり、公演を鑑賞する際の服装を指定したりする役割を果たすのです。


美知代は、皆をルールに従わせ、自身の評価を上げるために誰かを庇い、自分中心に物事が回ることに快感を覚えていました。


美知代は、小学校の頃からそうでした。学級委員を務めたり、理科の実験でリーダー的役割を果たしたり、合唱の伴奏をしたり。クラスで孤立しがちなむつ美をあえてグループに誘ったり。ところが、そのときは、可愛い転校生の愛季が現れたことで、美知代の思い通りにはいかなくなってしまいます。


大人になり、つかさのファンクラブでは思い通りにやれていた美知代ですが、そこに、小学校の同級生が現れたのです。美知代の毎日は新たな展開を見せます。


1話目は美知代、2話目はむつ美、3話目はつかさを主人公に、彼女たちの心の動きが描かれます。


自分にもある嫌な部分と向き合う


美知代たちを見ていると、自分の中にもあるけれど、あまり認めたくない嫌な部分と真剣に向き合わざるを得なくなります。


「誰かのため」ということにしているけれど、実際は「自分のため」にしていること。


誰かを理不尽に羨ましく思うこと。


心の奥底では自分が悪いとわかっているのに、環境のせいや誰かのせいにしてしまうこと。


私の中にもあるな、と思いました。美知代たちがただ嫌な人として描かれるのではなく、彼女たちの自分自身と戦う姿が表現されていたので、「抉られる」という感じではなく、静かに、正面から自分の嫌なところを見つめ、じっくり考えることができた気がします。


心の中で他の人のせいにして自分に言い訳をしたり、自分が満足感を得るために他の人に何かしたりするのではなく、自分を変えることで物事を達成する生き方をしたいと心から感じました。


お読みいただき、ありがとうございました。


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