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【日向坂文庫#3】『東京すみっこごはん 雷親父とオムライス』成田名璃子(表紙 渡邉美穂)

題名も表紙も可愛らしいので、ほっこりするようなお話なのかなと思って読み始めた。

しかし、1つ目のお話から、夢を追っているのだけれど自分に自信が持てず、諦めるべきか迷い悩む専門学校生という、非常にシビアな状況にいる人物にスポットが当たっていた。

路地裏の共同台所

「すみっこごはん」とは、路地裏の共同台所。集まった人でくじ引きをし、当たった人が料理を担当する。様々な人を温かく迎え入れる場所だが、次第に駅前の再開発が迫ってくる

第1章は冒頭に述べた夢を追う専門学校生×唐揚げ、第2章は妻を亡くしたおじいさん×筑前煮、第3章は中学受験のための勉強を頑張る小学生×オムライス、第4章は再開発×すみっこごはんの歴史×ミートローフ、といったように、人とごはんが一緒に描かれる。

ほっこりだけでない深さ

題名や表紙からイメージするようなほっこり感ももちろんあるのだが、それだけでない深いお話だと感じた。

特に1つ目から3つ目までのお話は、人と自分を比べて自暴自棄になりかけること、当たり前と感じて周りの人に充分な感謝をしないこと、子どものためといって力みすぎてしまうことという、少し間違えれば自分も陥ってしまいそうな弱さが描かれているので、感情移入しやすい

美味しいごはんを作ること、食べることを通じ、人の心がとかされていくのが印象的で、読み終わったときには前を向こうと思えた

本書はシリーズの2作目

本書はすみっこごはんシリーズの2作目。昨年11月に最終巻となる5作目が出て、シリーズは完結したそうだ。

1作目を読んでいなくても本書は楽しめたが、シリーズの他の作品も読んで、すみっこごはんを訪れるもっともっとたくさんの人に出会ってみたい

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