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第3話 なぜ地球だけに「プレートテクトニクス」があるのか?

ジオリブ研究所所長、ジオ・アクティビストの巽です。

「地球型惑星」では、その内部がまだ高温であるために、マントルが対流して冷えようとしている。地球以外の星では、温度が低い表層は冷え固まって1枚の岩盤(プレート)で覆われて、内部のマントルがグルグルと対流している。一方地球では、十数枚のプレートが押し合いへし合いして、活発な地殻変動や火山活動を起こしている。これがプレートテクトニクスだ。なぜ地球だけにプレートテクトニクスが駆動しているのだろうか?

さあ、ジオリブしましょ!

「水が犯人」の群発地震

最近の米国はシェールガスに沸いているが、現地の報道によると、シェールガスを取り出すために水を地中へ注入することで地震が多発するようになったらしい。広大な安定大陸の真ん中で地震が起きるのだから、人々は動揺する。

実は同じような「事件」は昔にもあった。コロラド州デンバーといえば長距離走や水泳の高地トレーニングで有名な所だ。この一帯には、恐竜化石で有名なデンバー累層と呼ばれる約6〜7千万年前の地層がほぼ水平に広がっている。つまり、地殻変動の少ない安定地塊なのだ。そんなデンバーで、1962年初頭から突然群発地震が始まった。多くはM4以下の地震だったが、中にはM5に達するものもあった。多くの人は地震というものを経験したことが無く、街は緊張と不安に包まれた。

やがて重大な事実が判明した。群発地震の震源域には米軍の兵器工場があり、この工場から出る排水を地下2000メートル以上の井戸に注入し始めた時期と、群発地震の発生時期が見事に一致したのだ(図1)。当然当局はその因果関係を否定したのだが、1963年9月に一旦注入を停止すると地震の発生回数は激減した。しかし、処理の必要性に駆られて一年後に注入を再開した途端、またもや地震は増加したのだ。ついに1965年9月に排水の地下注入廃棄は中止に追い込まれ、その後直ちに群発地震は終息した。地下に浸透した水が地震、即ち地盤の破壊を誘発したことは明らかである。

図3-1

その後世界各地の大型ダムで、貯水量が増加すると群発地震が発生することも報告されるようになった。つまり、水が地震の引き金になったのである。地震は、地盤が破壊されて割れ目(断層)が動くことで起こる。そして水には、岩石の強度を下げて割れやすくする働きがあるのだ。

水が動かしたプレートテクトニクス

さてここで、惑星地球の最大の特徴を思い浮かべていただきたい。それは「水惑星」、つまり地表に液体の水が存在することだ(図2)。

図3-2のコピー

他の地球型惑星では、その質量や太陽からの距離、それに大気の組成のせいで、表面は液体の水が存在できない状態である。例えば太陽に最も近い水星の表面温度は平均で200℃くらいだし、金星では大気中の二酸化炭素濃度が高く、その温室効果で表面温度は数百℃にも達する。一方で火星では、質量が小さいために原始大気を引き付けておくことができなかった。だから今は薄い大気しか存在せず、表面の温度は氷点下である。

地球でもかつては他の惑星と同じように、前回に解説した不動蓋型マントル対流が支配的であったに違いない。しかし今から約40億年前、大気中の水蒸気が雨として降り注ぎ、液体の水が海として地表を覆うようになると状況が一変した。

強度が下がった表層の岩盤には多くの割れ目ができ始め、そして弱い割れ目にはますます力が集中して大断層に発達した。ついにはその断層に沿って冷たくて重いプレートが沈み込み始め、その結果プレートの内部が裂けて海嶺が誕生したのだ。プレートテクトニクスの始まりである。

こうして地球は、太陽系惑星の中で独特の進化を歩むようになった。

かつては表面に水が存在し、現在でも地下に水(氷)が残っていることがほぼ確実だと考えられている火星。表面に水が存在していた当時には、地球と同じようにプレートテクトニクスが駆動していた可能性が高い。なぜならば、火星にはプレートテクトニクスが作る特徴的な岩石「安山岩」が存在しているらしいのだ。水、そしてプレートテクトニクスが存在していたのであれば、地球と同じように生命が発生した可能性もある。

しかし、先にも述べたように火星は地球に比べるとあまりにも小さく、大気を引き留めておくだけの重力がなかったために、温室効果のある大気は宇宙空間へ散逸してしまったのだ。こうなるともはや水は地底に氷としてしか残存できない。こうして火星は、水惑星そしてプレートテクトニクスの星としての活動を停止したのであろう。

このように、液体の水が存在し、そしてプレートテクトニクスが作動している惑星地球が誕生したのは、奇跡と呼べるほど珍しいことである。しかし広い宇宙には、このような惑星は必ず存在するに違いない。


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