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第5話 なぜ地球だけに「海」と「大陸」があるのか? 海で生まれる大陸

ジオリブ研究所所長、ジオ・アクティビストの巽です。

太陽系惑星の中で地球だけにある特徴の一つが、その凸凹した表面地形だ。この特徴が見られるのは、高地(大陸)の地殻が軽い安山岩質の岩石からなり、一方で低地(海)の地盤は重い玄武岩質の岩石で構成されることが原因だ。水星や金星、それに火星の地殻はほとんどが玄武岩質であるためにのっぺりしている。だから、地球は太陽系唯一の「安山岩の星」と言うこともできる。

この大陸がいかに誕生したか? これは地球進化論の第一級の謎である。現在の地球では、安山岩は大陸の端にある沈み込み帯で多く見られる。しかし今から38億年前、まだ地球の表層は他の地球型惑星と同様に玄武岩の地殻で覆われていた。そしてこの時からプレートテクトニクスが始まり、おそらく最初の大陸地殻が沈み込み帯で形成されたに違いない。では、そのメカニズムは一体どのようなものなのか?

今回は大陸誕生のヒミツに迫って行こう。

さあ、ジオリブしましょ!

プロジェクトIBM:大陸形成の謎を探る

私たちは、大陸成長の謎を解く鍵は海の中の沈み込み帯にあるのではないかと睨んだ。なぜならば、ここでは玄武岩質の海洋地殻の上に新しい火山が形成され、それがきっと大陸に成長していくはずだと予想したのだ。

そして、最も身近な伊豆-小笠原-マリアナ列島をターゲットに据えた。2002年のことだ。小笠原は英語ではボニンと呼ばれるので、3つの諸島の頭文字をとって「プロジェクトIBM」と呼ぶことにした。

まず数年かけて、IBM全域の地下構造を調べ上げた。海底地震計などの機器を多数配置して、観測船からエアガン(いわば空気銃)と呼ばれる装置から出した人工地震波が地下を通ってきた信号を受信して、地下構造を解析するのだ。病院で最新鋭のCT装置を用いて全身をくまなく調べるのと原理は同じである。すると、これまでの常識を覆すような新らしい発見があった。火山噴火ではほとんどが玄武岩質の溶岩を流し出すので、地下の岩盤も総じて玄武岩質だと考えられていたのだが、実はIBMの地下には、安山岩質の大陸地殻と同じ特性を持つ中部地殻が延々と存在していたのだ(図1)。しかも、活動的な大型の火山島の下には、この中部地殻が分厚くなっている。IBMの火山は玄武岩溶岩を流し出す一方で、地下では安山岩質の地殻を成長させていたのである。

図5-1_IBM 構造

できればこの中部地殻の岩石を直接採取して、それが大陸地殻であることを確かめたいのだが、まだそれは叶わない。そこで私たちは、ある仮説(図2)を立てて、それでIBMの地下構造を再現できるかどうかを検討することにした。

仮説はいたって単純である。IBMが誕生した頃(約5千万年前)は、マントルが融けてできる玄武岩質マグマが冷え固まって初期地殻が形成された。この地殻がその後も続いたマグマ活動の熱で融けて、安山岩マグマと溶け残り(残査)ができる。安山岩マグマは軽いので、上昇して冷え固まり中部地殻となる。一方で残査は、地殻の下にへばりつくように取り残される。この仮説が正しければ、現在の下部地殻は初期玄武岩質地殻、最上部マントルは残査に相当するはずだ(図2)。

図5-2_モデル

そこで、IBMの玄武岩を融かしてマグマや残査の組成を実験で決めて、それらを使って地殻とマントルの物性を計算してみた。その結果は観測で得られたデータと見事に一致したのである。残渣は大陸地殻と対になってできるので、「反大陸」と呼ぶことにした。宇宙の創世記に起きたとされる、物質と反物質の対生成をイメージしたのだ。

IBMはたった数千万年前から成長を始めたばかりなので、まだ十分には成熟していない、つまり今まだ地殻全体が安山岩質にはなっていない(図2)。しかし、これからもマグマの活動が続くと、どんどんと反大陸をマントルへと吐き出しながら、正真正銘の安山岩質大陸地殻へと成長するはずだ。

もう一つおもしろいことが解った。私たちの仮説と実験によると、反大陸物質はその下にあるマントルよりも重くなるのだ。重いものが軽いものの上に乗っている、この状態は明らかに不安定である。だから時間が経つと、やがて反大陸物質の層は地殻から剥がれて落下するに違いない(図2)。このような現象は、デラミネーション(層の崩壊)と呼ばれる。

余談だが、このデラミネーション、2006年に草薙くんと柴コウさん、それに豊悦さんらが出演して話題となった「日本沈没」(樋口真嗣監督作品)」で、日本列島が沈没するメカニズムとして登場したことを覚えていらっしゃる方もあろう。「なんとかして科学的にウソではない方法で日本を沈没させてください」と樋口さんに頼まれて、絞り出したものである。

さて、反大陸の運命やいかに?

このような地球内部で起きる大規模な物質の移動については、次回からお話しすることにしよう。

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