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【映画日記】『マイ・エレメント』『シン・ちむどんどん』

2023年8月20日(日)
府中TOHOシネマズ 『マイ・エレメント』
基本的に3DCGのアニメはあまり好きではないので,この作品もあまり観る気はなかったが,夏休みも終盤になって子どもたちと過ごすイベントのレパートリーに困ってきたところ。以前は娘はこの作品にそれほど興味を示していなかったが,急に観たいといってきたので,気は乗らないが観ることにした。
すると,思っていたのとは異なり,娘よりも私自身が引き込まれる作品だった。エレメントがかつての四大要素であることは予告編で分かっていた。火・水・空気(映画では雲)・土(映画では木)を人間界の属性である,人種や民族になぞらえているということは分かったのだが,実は移民の物語にも準えている作品だった。多民族国家としての「エレメント・シティ」だが,実のところは水がマジョリティであり,水を必要とする木と,水の変化した状態である水蒸気の塊である雲は,当然のことながら水と相性がよく,共生しているといえる。しかし,基本的にこの時点で混血はないようだ。それに対して,火はエレメント・シティにやってきた新参者という設定になっている。もともと,火だけが暮らしている国があり,そこに災難があり,主人公の父親は夫婦で新天地を目指して,その国を離れ,エレメント・シティにやってくる。火の言葉はエレメント・シティのものとは異なり,父親夫婦がやって来た時はさまざまな差別にあう。それでも,かれらはいわゆるエスニック・ビジネス的な雑貨店を経営し,そこを中心に火の移住者たちが集住して,ファイアー・タウン的なものが形成される。主人公の女性は父親を継いでその雑貨店の店主になろうとしているが,そこでとある水の公務員と出会い,要素間を越えた男女の関係へと進展していくという物語。
確かに,人類が歴史的に経験してきたものをうまく表現しているとは思う。しかし,植民や移民,強制労働移住などの人類の歴史においても少なからず混血があったということをこの作品では描こうとしていない。また,主人公二人の要素間の恋愛をきっかけに要素間の関係の変化を描いている。しかし,この作品でも要素間の関係は恋愛を除いては描いていて,恋愛という結びつきが生じた時に,それ以降どうなるのか,つまり生殖行為が行われて子どもを産み育てるというところまでは描いていない。そういう意味でも,また主人公同士の心を通い合わせるところの過程があまり丁寧に描かれていないという印象は拭えない。

 
2023年8月25日(金)
東中野ポレポレ 『シン・ちむどんどん』
ようやく子どもたちの夏休みも終わり,この日は始業式だったが,私も休みをもらって少したまった私用を済ませていた。そして,帰宅した息子と一緒に映画を観に行くことにした。同じ監督の『センキョナンデス』は見逃してしまったので,楽しみに久しぶりの東中野まで出かけた。予約の時点でかなり席が埋まっていたが,なんとこの日は上映後に監督二人の舞台挨拶があるという。
今回も選挙の話だが,昨年行われた沖縄知事選挙を追ったドキュメンタリー。今回は現知事の玉城デニー氏と前回同様の佐喜真淳氏,そして下地幹郎氏の三人の戦いとなった。このタイトルは,NHKの朝ドラ「ちむどんどん」からきているわけだが,監督のプチ鹿島氏が,彼は毎日新聞を複数紙くまなく読むという人だが,ある新聞が候補者三人に出したアンケートの結果から,興味深い事実を見つけ,それを本人たちにぶつける,というところからきている。「好きなテレビ番組は」という問いに,三人すべてが「ちむどんどん」(玉城氏はNHK朝ドラと答えただけのようだが)と回答したという。特に佐喜真氏はSNSでちむどんどんのPRをさんざんやっていたということで,鹿島氏はそれを怪しいとにらんで,本人に質問をぶつけた,という内容。
まあ,それはともかく選挙の結果は既に知っていて,投票時間が終わる20時の時点で玉城氏に当選確定が出たということは知っていた。しかし,実際には玉城氏34万票に対し,佐喜真氏が27万票と,大差というわけではなかったということを改めて知る。この映画ではその辺りには深く突っ込みを入れておらず,しかも選挙の話は前半で終ってしまう。選挙の話の時から辺野古の話はあるのだが,後半の見せ場は沖縄国際大学の前泊博盛さんの研究室を訪ねて聴く話である。現在埋め立て工事が進められている辺野古は,名目としては世界一危険な基地といわれる普天間基地の返還に対して,代替の基地を作るということで,辺野古が完成してから普天間が返還されるということになっていて,時の総理大臣がよく口にするように,「唯一の選択肢」とされている。しかし,そもそも実績としても世界一危険な基地は普天間ではなく嘉手納であるということ。辺野古の海を埋め立ててキャンプ・シュワブに滑走路を作るという計画は1960年代からあったこと,などさまざまな事実が知らされる。つまり,米軍の計画において,普天間返還は代替滑走路が必須ではないということ。嘉手納はどうしても手放せないので,普天間を捨て石として返還対象としたこと。辺野古の計画は米軍もしていて,その時は大浦湾の軟弱地盤のことをおそらく調査していて,そこを避けるような滑走路計画がなされていたということ。新たな滑走路は辺野古だけではなく,沖縄本島のなかで10ヵ所程度検討されていたという。
もう一つの見どころはやはり辺野古である。座り込みをしている人たちから話を聞いたり,その場でダースレイダー氏がラップを披露していたりするのだが,最後のシーン,辺野古の反対運動に関わるお三方の言葉の大きさである。この映画は基本的に本人が出演するドキュメンタリー作品なので,取材対象者の意見を聴いた後に,監督&主演の二人のコメントがある,というのが基本的な作りなのだが,このお三方の言葉は重すぎて,監督&主演の二人のコメントを挟まずにエンドロールに入る。この編集の仕方,本当にこれ以外の選択肢がない終わり方だったと思う。そのなかの一人の言葉に,「米軍よりも日本政府が怖い」というのがあった。まさにその通りで,もちろん沖縄では米兵がやったさまざまな犯罪や,米軍が起こした事故もたくさんある。しかし,そのようなものを容認して基地を持続させ,さらには思いやり予算などといって基地に関わる費用も日本政府が払い,さらには沖縄で自衛隊施設を増やしていくというのが昨今の沖縄である。
舞台あいさつについて書く気力までなくなってしまったので,この辺で。


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