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映画『アメイジング・グレイス / アレサ・フランクリン』を観るに際して

現在上映中のライブ・ドキュメンタリー映画『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』。この映画は、世界を代表するシンガーであるアレサ・フランクリン(享年76)が、ロサンゼルスのニューテンプル・ミッショナリーバプティスト教会で2夜に渡って行ったライブ映像である。

このライブの音源自体はは既にリリース済みなのだが、1本の映像作品として世に出るのはこれが"初"である。ここでは、この映画を見るに際して、頭に入れておいた方が良いことを簡単にと書き留めておきたいと思う。

バックボーンのベースにあるのは人種差別問題

2020年代に入っても、まだ全世界で大きな問題となっている人種差別問題。肌の色、性別、貧富の差・・・あらゆるエレメントがベースとなって生まれる分断や差別。アメリカにおける、こう言った差別を理解するのに避けることができないのが「公民権運動」である。「公民権運動」とは、1950年代後半から活発になった、アメリカの黒人の基本的人権を要求する運動のこと(ざっくり)。

かつて、ボブ・ディランの"Blowin' In the Wind (風に吹かれて)"がその象徴的な曲として、差別と戦う多くの人を勇気付ける曲となったことで有名だが、この公民権運動を大きく牽引していたのは、意外にも黒人にルーツを持つソウルやブルースなどのブラックミュージックではなくて、最初はフォーク・ミュージックだった。

そんな中での、アレサ・フランクリンである。彼女もまた女性差別を起点とした公民権運動の象徴である。そんな彼女が象徴となるまでの経緯に軽く触れたいと思う。

ゴスペル・シンガーからポップ・シンガーへの転身

幼少期を聖歌隊のメンバーとして過ごした彼女は、わずか14歳でゴスペルシンガーとしてデビュー果たす。4年後、18歳になった彼女はゴスペルではなくポップ・シンガーになることを決意し、NYに移住してコロンビアと契約。

しかし、このことが一部ゴスペル界隈から「商業に魂を売った」と反感を買った。けれど、アレサからしてみたら、決して商業に走ったわけではなくて、ゴスペルを起点とした黒人音楽にポピュラリズムを持たせるための活動がしたいとポップ・シンガーになっただけなんだと僕は強く解釈している。

ボブ・ディランと並び公民権運動の象徴となる

一方で、アレサはこの時代に大きな影響を与える2つの曲を世に産み落としている。"Respect""[You Make Me Feel] A Natural Woman" だ。どちらも公民権運動における大きな意味を持つ楽曲である。

まずは"Respect"。この曲はオーティス・レディングのカヴァーではあるが、アレサ版では原曲に女性目線での解釈が与えられており「(女性を)大切にして欲しいの」と声高々に歌う彼女に多くの女性の共感を得た。

もう一曲は"[You Make Me Feel Like] A Natural Woman"だ。この曲はキャロル・キングがアレサのために書き下ろした曲で、「あなたに出会って初めて自分の価値に自覚を持った」と歌っており、大きな視点での女性蔑視に苦しむ女性にとっての大きな勇気となった。


ゴスペル・シンガーからポップ・シンガーに転身して約11年。かつて、ゴスペル界隈から白い目を向けられていた彼女が、いつの日かアメリカの大きなうねりのど真ん中に存在するようになり、そしてまたゴスペルの舞台に戻ってくる。

アレサの曲を普段あまり聴かない人には是非予習せずに観てもらうことをオススメする。そこで"ソウル"の真髄を固定観念なしに感じて欲しい。(でもって、映画を観た後にライブ音源を聴けば、更なる最高の余韻に浸れるはず)


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