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香港版『じゃじゃ馬ならし』?: 映画レビュー『悪漢探偵』

 1982年の香港の映画『悪漢探偵』を見た。前半から中盤にかけては結構盛り上がり、特に男勝りで当時として珍しい女性刑事を演じるシルヴィア・チャンの演技は前半では非常に爽快で魅力的。

 『男たちの挽歌』のチョウ・ユンファが『シティ・ハンター』の冴羽獠のデザインに影響を与えたのではないか、という話を聞いたことがあるが、もしかしたらこの作品のシルヴィア・チャンは槇村香の設定に部分的にでも影響を与えているかもしれない。あと英語のWikiなどでは007がこの作品の影響源として挙げられているが、'60、'70年代の日本の刑事ドラマの影響などもあるかもしれない。

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 007あるいは『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドのお粗末なパロディが出てきたり他の映像作品への言及が出てきたり、当時の香港の状況(アメリカから来た華僑の警部が「大陸人?いつ来たの?」と聞かれるあたりなど)が窺い知れたり興味深い点も多い。

 ダレるのは後半。

 先述のシルヴィア・チャン演じるホー警部は、禿頭が特徴でサミュエル・ホイとともにコンビを組むコージャック警部とくっつくのだが、一度くっついたのちはコージャック警部が非常に家父長的に振る舞い(「家で風呂でも沸かしてろ」「コーヒーを淹れろ」「それを決めるのは俺だ!」など)、そうしたコージャック警部の前でホー警部は、前半の活気とコージャック警部に対し「私とあなたは警部として対等だ」と言い張る強さを失い、ただただ従順に振る舞う。

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 本作の後半はシェイクスピアの問題作『じゃじゃ馬ならし』をどこか連想させる。男勝りな姉と(男性にとって)理想的な妹が出てきて、それぞれが作中で最終的に相手を見つけカップルとして成立する…という構図が共通しているし、女性描写はかなりおざなりで、最終的にはコージャック警部とサミュエル・ホイ演じる怪盗がまるでカップルのように寄り添って終わるというホモソーシャル性が、今から見れば時代を差し置いてもさすがに目についてしまう程度には強い。

 コメディ映画としては出来は高いという印象で、80年代の香港では『男たちの挽歌』などと並びトップの興行収入だったというのも頷けるが、少し後味の悪さのようなものも感じてしまう。

 配信は今の所ないようだが、TSUTAYAなどにDVDのレンタルがある。

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