調教の始まり…団鬼六文学の最高傑作! #5 花と蛇 1 誘拐の巻
端整な面立ち、二重まぶたの大きな目、滴るばかりの艶かしさ……。財界の大物、遠山隆義の後妻で、26歳になる美貌の静子が、義理の娘とともにズベ公グループに誘拐された。彼女を待っていたのは、鬼畜たちによる想像を絶した「調教」の数々だった……。「団鬼六文学の最高傑作」「官能小説の金字塔」など、一部から高い評価を得ている『花と蛇』シリーズ。その記念すべき第1作、『花と蛇1 誘拐の巻』の冒頭をご紹介します。
* * *
川田は、凄惨と言いたいぐらいに美しい静子夫人の観念しきったような横顔に見入っていたが、銀子にいった。
「な、いいだろう。ちょっとやそっとじゃ、手の出ない高嶺の花だ。こんな機会じゃねえと、こちとらなんぞ、手を出す時がないじゃないか」
「ふん。そう言うだろうと思ったよ。スケコマシをやってる時のあんたは、何時でも、最初、まず味見をしていたからね」
「昔の事なんかいうな。俺は、実をいうと、前からこの奥さんに惚れ抜いていたんだよ。自動車で送り迎えするごと、バックミラーに映る奥さんの顔を見て、一度でもいいからこんな女と」
「わかったよ。結局、女を抱きたいってんだろ。まあ、あんたにも、ずいぶん世話になった事だし、今夜は、しっぽり濡れさせてあげるよ」
と、銀子は、笑いながらいい、配下のズベ公達に、
「奥さんを上へ上げな。今夜は、川田の兄貴のお相手をさせるんだ」
アイヨ、とズベ公達は、梯子を地下へ降ろし、静子夫人の身体を桂子より離して、梯子を登らすべく、一人は、静子夫人の首に縄をかけ、上からひっぱり、一人は、後ろから尻を持ち上げるようにして、キャッキャッ騒ぎながら、とうとう上へ押し上げてしまった。
一糸まとわぬ素っ裸を麻縄で後手に緊縛されている静子夫人。わずかに下腹部を覆うものは屈辱の薄いおしめカバーであった。
ズベ公達に引き立てられてふと、淫靡な微笑を浮かべている川田の顔を眼にした夫人の顔面は恐ろしい位にひきつった。川田がこの女愚連隊と共謀している事を一瞬に悟った夫人は口惜しさが火の玉のようにこみ上ったが、それよりも運転手の川田の前に言語に絶する屈辱の羞ずかしい姿を晒している自分に気づくと赤い猿轡をかまされた顔面をねじるように横にそむけ、ガクガクと全身を小刻みに慄わせるのだ。
「奥様の口にかましているのはお前達のパンティだな」
と、川田は朱美や義子を見て、パンティの猿轡にビニールのおしめカバーなんぞさせて、相手は大財閥の社長令夫人なんだぞ、あまり、ひどい目に遭わすんじゃない、などといったが嗜虐の悦びに全身を痺れ切らせている。
「これでも丁重に扱っている方さ。大事な大事な人質だものね」
と、朱美はおかしそうにいった。そして、その場に緊縛された裸身を縮みこませた夫人の下腹部に眼を向けて、
「さすがに令夫人だけあってお行儀がいいね。朝から穴倉の中に入りっぱなしなのに全然、おむつカバーは汚しちゃいないよ」
というと、悦子が、桂子の方は派手に汚しているがね、と、笑い出す。
地下の穴倉から梯子を引き上げたズベ公達はもう一度、地下に一人残されている桂子をのぞきこんで、
「おしめはもう少ししてから取りかえてやるからね。ママのお仕事が終わるまでしばらく我慢していな」
と、哄笑して元通りハメ板を並べ穴を塞ぐのだ。
桂子の激しい嗚咽の声が聞こえたが、ハメ板の上へ畳が敷かれるとそれも封じこめられて聞こえなくなる。
その場に二つ折りに小さく身を縮ませている夫人の口から銀子がその赤い猿轡を外しとった。
「あんまり気位が高過ぎるんで、こらしめのために私のパンティで口を塞いでやったのさ」
と、銀子は川田を見ながら痛快そうにいった。
静子夫人は屈辱の布を外されてほっとしたのか、大きく二度、三度、深い息を吐き、紅潮した端正な頬を横に伏せた。
これからこの女悪魔達は川田の前で自分に何をさせる気なのか、夫人は恐怖のあまり緊縛された全身を石のように硬くしている。
「さ、猿轡を外してやったんだ。川田さんに何か言いたい事があったら遠慮なしにいいな」
銀子がおびえ切っている夫人に向かってそういうと、今まで夫人のその光沢のある美しい裸身に粘っこい視線を向けていた川田が吸い寄せられるように夫人に近づいた。
「近寄らないでっ」
と、静子夫人は悲鳴に似た声をはり上げて後手に緊縛された裸身を悶えさせるようにして後ずさりさせた。
「あ、あなたがこの連中と共謀していたなんて夢にも思わなかったわ」
一体、私に何の恨みがあるのです、と、後は言葉にならず口惜しさに喉元が熱っぽくなり、乳色の両肩を慄わせて嗚咽するのだ。
「奥様に恨みがあるなんてとんでもない」
と、川田は口を歪めていった。
「今まで何かと眼にかけて頂き、時には過分にお小遣いまで頂戴して、本当に感謝しておりますよ」
と、皮肉っぽい口調でいった。
「でもね。奥様があまりにも美し過ぎた。これが俺に悪の道を選ばせた理由という事になります。遠山家の後妻として入られた奥様を一眼見た時、俺はこんな女を一度でもいい、自分の思い通りに扱ってみたい。そんな事が出来たら俺は死んだっていい、なんて思ったものです。遠山のジジイに奥様がその美しい身体を夜毎に抱かれているのかと思うと嫉妬のために気が狂いそうになりましてね」
こうなれば色と金、この二本建ての悪事を働いてやれと捨鉢になりましてね、と、調子づいたようにしゃべりまくる川田を夫人はおぞましそうに小刻みに慄えながら見つめるのだった。
「俺の狙いは金より奥様なんだよ」
と、川田が凄味をきかすようにいうと夫人はぞっとして立膝に縮めた裸身を更に後ずさりさせた。
「川田さんには随分と私達、世話になっているんだからね。それに今回も相当に稼がせて頂いたんだし」
と、顎を突き出すようにしていった銀子は、
「私達の顔を立ててくれるわね、奥様。川田さんの女になってほしいのよ」
と夫人に向かっていった。
戦慄が全身をよぎり、静子夫人はハッとしたように顔面を上げた。
「これから、川田さんにこってりと可愛がって頂くのよ、わかった」
と、続いて朱美が声をかけると夫人は狂ったように激しく首を振った。
「嫌ですっ、そ、そんな事、絶対に嫌ですっ」
夫人は甲高い声をはり上げて拒否を示した。そして、川田が一歩でも近づけば噛みつくばかりの敵意を見せてキッと眉を上げ、憎悪のこもった切長の潤んだ瞳で川田を睨むのだ。死んだってこんな男の嬲りものにはなるものかといった激しい敵意を全身で示している。
「ふん、運転手風情に抱かれるなんて身の毛がよだつと言いたげだね」
銀子は静子夫人が反撥を示せば示すほど張り合いのようなものを感じ出している。
「川田さんは女を縛っていたぶるのが好きという変態なところがあるのよ。私達にもその妙な病気が感染したみたいね。あんたみたいな美人を見ると無性にいじめてやりたくなったわ」
嫌だといっても絶対にやらせるからね、と叫んだ銀子は、奥様をそこの柱に縛りつけな、と仲間達に命じた。
「一度、奥様の素っ裸を真正面から川田さんの眼に見せてやろうよ」
土間の片隅に立つ柱に静子夫人を立位にしてつなごうとし、朱美と義子は狂気したように首を振って悶える夫人のしなやかな両肩に手をかけて一気に立ち上らせた。
「嫌っ、嫌ですっ」
と、のたうつ夫人の裸身を引きずるようにして柱を背にして立たせたズベ公達はヒシヒシと縄がけしていく。
「そら、川田さん、恋しい人の生まれたまんまの姿をはっきり眼にしてみなよ」
静子夫人を晒しものにするため、柱を背にさせて立位で縛りつけた悪女達は川田を手招きして呼んだ。
川田は酔い痴れた気分で立位の晒しものにされた静子夫人の方にのっそりと近づいて行く。
「こんな色消しのおむつカバーなんか外しましょうね。川田さんが一番、見たがっている所はちゃんと晒さなきゃ」
銀子はそういって夫人の下腹部をわずかに覆っているビニールのカバーを剥がしとった。
夫人は耳たぶまで朱に染めてさっと顔面を横にそむけた。
晒し柱の前に腰を落とした川田は何一つ覆うものを失った静子夫人の全裸像をそこに見て思わず生唾を呑みこんだ。
「ね、いい身体をなさっているでしょう。私もはじめて見た時、驚いたわよ」
と、銀子は陶然として夫人の全裸像を見入っている川田の耳元に口を寄せるようにしていった。
麻縄をきびしく上下に喰いこませている優美な半球形の乳房、滑らかでスベスベした腹部、女っぽい曲線を描く腰のくびれ、適度の肉づきを持って乳色の光沢を浮かべる官能味のある太腿――そんな静子夫人の肉体の一つ一つを川田は情欲に潤んだ眼差しで舐め廻すように見つめている。やがて、川田の視線は夫人の股間の悩ましい濃密な茂みの部分に釘づけになった。それは貪欲さを感じさせるばかりにふっくらと柔らかく盛り上ってまるで手入れされているような美しい形として川田の眼に映るのだ。
「ね、ここなんか、とてもおいしそうでしょう」
川田の視線に気づいた朱美は晒しものにされている夫人の横手に廻って腿の附根のその艶っぽい濃密な茂みのあたりを指で示しながら、女の私達でさえ、一寸、悪戯がしてみたくなるわね、といって笑った。そしたら、すぐに熱いおつゆが噴き出してくるみたい、といって悦子も笑い出す。
そんな女達のいたぶりの言葉に静子夫人は耐え切れなくなったように朱に火照った顔面を激しく左右に慄わせながら、
「けだものっ」
と、嗚咽を含んだ声で叫んだ。
「私はお金を主人に出させるための人質なんでしょう。その人質がどうしてこんな辱しめを受けなきゃならないのですっ」
続いて夫人が狂ったようにわめくとその瞬間、銀子の激しい平手打ちが静子夫人の泣き濡れた頬に炸裂した。
「私達をけだものだなんていったわね。二度とそんな口がきけないようにお仕置してやろうか」
この場に桂子を引っ張り出して皮から血が出る程、青竹でぶちのめしてやろか、と、悦子が凄んで見せると夫人はおびえて顔面をひきつらせた。
「そんなもんよりマメ吊りの刑はどうや」
と、義子も口を出す。これはズベ公特有の残忍な私刑で、仰臥位にして大の字縛りにした女のクリトリスを洗濯バサミではさみ、引っ張り上げるという淫虐な拷問である事を銀子は恐怖に慄える夫人に淫靡な笑いを口元に浮かべながら説明するのだった。
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