見出し画像

「裏にドラマがある」と考えれば寛容になれる #5 スーパーマーケットでは人生を考えさせられる

スーパーマーケットでは、人生を考えさせられる。人間とは、男とは、女とは、夫とは、妻とは、老人とは、赤ん坊とは、犬とは、働くとは、人の親切とは、生きるとは……。詩人、銀色夏生さんの『スーパーマーケットでは人生を考えさせられる』は、行きつけのスーパーで考えたことを、独特の感性でつづったエッセイ集。なんてことはない日常が、ちょっと目線を変えると味わい深いものになる、そんな本書の一部をご紹介します。

*  *  *

レジで感じる「人生のドラマ」

気になるレジの女性がいる。

画像2

いつも機械仕掛けのように同じセリフ、同じ調子で話す。

「いらっしゃいませ」「どうもありがとうございます」「お箸はお使いになりますか」。どれも一本調子。心をこめないようにあえて決めているみたい。その人に当たると、私は「ああ。またこの人だ」と思い、こちらも同じように粛々とやることをこなす

不自然、なのだ。自然なものって自然なので気にならないし気にもとまらないが、不自然なものはすぐ気にとまる。

自然と不自然の境目、ということを思った。自然、不自然の判断って繊細だ。とても人間らしい。この人がこういうふうに言うことに決めたのにはなにか理由がありそう。

ドラマがありそう、とここでも思った。なんにでも、人のやることにはその裏にドラマがあるものだ。ドラマがあるのかもと思うと寛容になる。私はこの人のことを嫌いではない。密かに応援しているのかもしれない。

「自然さ」ということで思い出すことがある。

前にここにあったお店で量り売りのサラダを買った時のこと。新人のバイトと思われる人が会計したあとに私にお釣りを手渡してくれた。その渡し方が不自然で、ものすごく違和感を覚えた。指の触れ方、手のひらへのお金の置き方、なのかどうか。びっくりするほど普通と違ってた。

で、そのことを帰る道すがら考えた。

あんなに、「ちょっと気持ち悪い」ってぐらい違和感を覚えたということは、今までのほとんどすべての人はとても上手にお釣りを手に渡してくれていたのだ

お釣りを手渡すという行為は、簡単そうで奥深いのだな。一歩間違うと「気持ち悪い」とまで思われてしまう。それがわかった。いつもの人たちの、何も違和感を感じさせなかった自然さのすごさが光った瞬間だった(私にとって)。

うーむ。私としては、スポットライトをそこにあてたい。

ピカーッ。

小さく喜び、小さく悲しむ

仕事がなかなかはかどらない時、私はアルコールというガソリンを自分に注ぐ。

画像1

そのガソリンにもレベルがあって、いちばんいいのはワインショップの好きな銘柄。冷えていて味も好きな味。

次はスーパーの冷えていないハーフボトルのシャンパン。

最低は、スーパーの安い白ワイン

番外編にあるのが米焼酎。特に好きじゃないけど、冷蔵庫の上に置いといてなにもないって時にちょびっと飲むために待機している。

で、ワインショップにたびたび行くのもホントになんだか気が引けるので、行くのはできるだけ週2回ぐらいにして、残りはスーパーで軽く、まるでお醬油を入れるみたいな感じで肉や野菜と一緒にカゴに入れる。

今日は家に冷えたストックがあったのでいいけど、明日用に最低レベルの白ワインをスーパーで買った。980円ぐらいの。たまにこういううれしくないのを買って気をくじくのだ。

小さな山をこしらえて、小さく喜び、小さく悲しむ

それが人生を長く楽しんで生きる秘訣だ。

長く生きてくると、人生にはそうそうおもしろいことはないってことを、知ってしまう。

◇  ◇  ◇

連載一覧はこちら↓

スーパーマーケットでは人生を考えさせられる 銀色夏生

画像3

紙書籍はこちら

電子書籍はこちら

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!