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居眠り猫と主治医 ⒋オトナのお子様ランチ 連載恋愛小説

いくら倒れそうなほど眠かったからといってアレは非常識極まりなかったと、あとから冷や汗ものだった。
「あの、ずうずうしくて申し訳ありませんでしたっ!」
勢いでトートバッグの中身が飛び出し、小学生かよとツッコまれる。

セレクションの理由は、果物だったらスタッフでシェアしやすいのではと思ったから。
「食のアンテナが干からびてるので、スイーツとか選べなくて」
甘党かどうか今さら祐に確かめ、好きでも嫌いでもないと返答をもらう。

***

「わあ…これ、ウチのサラそっくり」
とあるテントで、文鳥の豆皿セットを見つけ文乃は小躍りする。
世にインコデザインは多々あれど、文鳥はレアなのだ。

「なんか…年季の入った世話好きキャラですか?」
家に帰りつくまでに割りそうだと思われているのか、店先のテーブルで祐はていねいに新聞紙を巻いてくれた。一枚一枚包んでから全体をくるりと巻きこむ念の入れようである。

「…腹黒で世話好き?」
そして根に持ちやすい。
「あれは聞かなかったことにしてください。撤回します」
この人の前だと、ぽろっと余計なことを言ってしまい窮地に陥る。
彼の口数が少ないせいか、すきまを埋めなければという焦燥に駆られるのだ。

「おわびにランチおごらせてください」
「なんのおわび?」
その目にからかいの色を見てとり、文乃は学生時代に付き合ったオトナな先輩を思い出した。

***

軒を連ねたキッチンカーから祐が選んだのは、肉が敷きつめられて野菜が隠れてしまっている特製ビビンバ丼。
文乃はひとめで大人のお子様ランチに心を決めた。
「お子様ランチ人生初です。あこがれだったんですよー」
うっとりとボックスをながめまわす文乃に、彼は少々引いているようす。

「一回くらいあるだろ」
「いえ。皆無です」
こまかすぎる嫌がらせ。当然のようにのけ者にされる、みじめさ。
思い出したくない過去は、今は考えないでおこう。

快晴の空のもと、木陰の切り株ベンチでランチタイムを満喫する。
川を渡る風がすがすがしい。
「今日は食欲あるんだ」
「お子様ランチは別格です!」

エビフライはプリプリ、濃厚デミグラスソースのかかったオムライスは、口の中でとろける。まろやかクリームコロッケに、ジューシーな本格ソーセージまで。
「いちいち見せなくていいから」
「ウザイですね。スミマセン」

ランチ自体の味も格別なのだが、どこで食べるか誰と食べるのかが、おいしさの決め手なのかもしれない。
「…あ。気持ち悪いこと言いました」
はしゃぎすぎを、やっとこさ自覚する。

とっくに食べ終えていた祐がペットボトルのお茶を豪快に飲み干し、大きく伸びをした。
昼寝する?という冗談に、文乃は全力で食いつきそうになった。

(つづく)

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