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フマジメ早朝会議 ⒕喫茶トモシビ 30th Anniversary Party 連載恋愛小説

喫茶トモシビは、マスターが40歳のとき脱サラして始めた。
それからちょうど30年。
昔ながらの喫茶店の雰囲気を大事にしつつ、持ち前の好奇心で新たなメニューを開発。客を飽きさせない。
今では、つながりを生み出す地域になくてはならない存在となっている。

数仁かずひさが作ったロゴは、予想を超えてきた。
さりげなくログハウスが描き込まれた、西洋の紋章のような正統派デザイン。30thではなく、Since1994と表記。
長く使っていけるようにという、きめこまやかな配慮だ。

キャンドルの炎とリスのしっぽの先が揺れ、シッポちゃんはウインクしている。ロゴとはべつに、見る角度によって変化する3Dシールまで作成。

「これこそ無報酬エグくないすか?」
急に大物感出してこないでくださいよ、と広大はドン引きしている。
「じゃあ、会長の出世払いってことで」と数仁。
ウチの会社のロゴも屋敷さんに依頼するんだった、と広大は頭を抱えていた。

***

周年パーティーは、孫の広大率いるBK5(文具研究会第五師団)の主催。そろいのエプロン&バンダナで、会場設営・料理の手伝いやイベント進行をになう。
飾りつけは手芸部のみなさんがはりきり、アットホームでおめでたい雰囲気に。
園芸部は、この日のために育てたプリムラのミニ鉢植えを来場者に贈る。
珈琲部は、マスターの助っ人として活躍。

***

じーっと自分を見る人物に気づき、恭可は手を止めた。
「あ…栗林シッポさんですよね」
まちがいではないので、うなずく。

「えっと…もしかしてアニメーション作ってくれた…?」
絵柄と本人が似通うことはよくあることらしい。
映像もしかりで、やわらかな雰囲気の安藤という男の人だった。
動画に感銘を受けたむね、ことこまかに熱弁する恭可。
ぜひまたコラボしましょう、と約束する。

顔の広い広大の関係者は、大学の同級生やおなじみTBK(焚き火会)メンバー、起業セミナー仲間など。
恭可も負けてはいない。
専門学校時代の友人やバイト仲間、商店街の顔なじみ。
恭可のファン第一号・唯ももちろん参加。
誘ったっけ?というような人まで駆けつけてくれた。

***

常連有志によるコーラスや、素人マジックショー、ウクレレの弾き語り。
昔なつかしのお楽しみ会のよう。
立食形式にしたいつものおいしい食事に、会話の花が咲く。
ナポリタン・海老グラタン・カツサンドにおうちカレーetc.
新・創作デザート「いちご大福パンケーキ」は女性陣で奪いあいに。

トリは、例の動画を特別編集したアニメーション。
マスターらしきクマの編みぐるみがせっせと小屋を建てたり、料理に手こずったりするシーンが挿入され、涙と笑いを誘う。
「30周年おめでとう」のテロップとともに、画面にクラッカーがはじける。

と同時に、リアルでも皆でクラッカーを鳴らし、指笛と拍手。
「いつもありがとう、まり子。苦労かけてすまんな」
マスターがいとしの奥様に花束を贈呈して、会場はひとつになった。

(つづく)
▷次回、第15話「マスターのムチャぶり」の巻。



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